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年金分割しない旨の合意の有効性

年金分割請求権そのものは、厚生年金保険法という公法の下での厚生労働大臣に対する請求権なので、離婚する当事者の私法上の合意では放棄できません

離婚協議書や離婚給付等契約で、夫(通常第1号改定者=年金分割の出し手)と妻(通常第2号改定者=年金分割の受け手)が、年金分割しない旨の合意をしても、夫・妻と共に厚生労働大臣の三者が契約当時者にならない限り、その条項は無効で、執行力をもちません。

又、合意分割に関する条項を設けずに、清算条項(「当時者双方は、本件離婚に関し、本公正証書に定めるほか、何らの債権債務がないことを相互に確認する。」等の条項)を設けたとしても、年金分割は請求できます。清算条項によって年金分割請求権を放棄したことになりません。又、合意分割の按分割合についての合意ができない時には、家庭裁判所に対して按分割合の審判又は調停(通常は審判)の申立てを行い、実質的に強制的な合意分割ができます。

しかし、家庭裁判所に審判や調停の申立てをしない旨の合意をすることは可能です。年金分割請求権そのものの放棄ではなく、当時者間で合意分割の按分割合についての合意できない場合に裁判所の審判や調停を求める権利―「裁判所への訴権」―の放棄に過ぎないからです。

訴権の放棄についての有効な合意がある場合、家庭裁判所は、申立てられた審判や調停を却下して、実質的な審理や調停を行いません。裁判所における合意分割の按分割合に関する合意形成(調停)や審判という命令を得る機会が失われます。従い、一方(年金分割の出して=第1号改訂者:通常元夫)が裁判所外での合意分割の按分割合の協議において第2号改定者(通常元妻)の提案を拒否する限り、按分割合の合意ができず、結果的に合意分割が実施できなくなります。

こういう合意をする場合は、強迫や詐欺等で訴権を放棄したとの事由で合意の取り消しを主張されないように、両当事者が出頭しての公正証書作成手続と精細な条項作成は必須でしょう。(詳細な委任状があれば、公正証書は代理人での締結も可能ですが、「訴権の放棄」の合意では、本人同士で作成すべきです。)

尚、訴権を放棄して合意分割ができない場合でも、3号分割は、第2号改訂者が年金事務所で単独で手続する限りは、自動的に行われ、第1号改定者は第2号改訂者の訴権の放棄があっても3号分割だけは拒否できません。具体的には、平成20年(2008年)4月1日以降で第2号改訂者が3号被保険者であった期間の3号分割は拒否できません。

夫が財産分与額を増額する等の見返りに、妻に年金分割の訴権の放棄を合意させられる等と弁護士がネットで書いていますが、単なる言葉の遊びで、殆ど絵に描いた餅だと思います。年金は、終身であり、その経済的対価を算出するのは非常に困難だからです。

調停委員時代に、離婚直後支払の現金財産分与額の相当な増額で、年金分割の訴権の放棄で合意した例が一件だけありました。しかし、妻の健康状態が悪く早いタイミングで現金が欲しいとの特殊な事情があったケースで、一般的な事例とは到底なりえません。

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