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不法行為による損害賠償請求訴訟を提起する不倫慰謝料の解決は、慰謝料金額も少ない上に、判例及び法規範による制約があるため、労多くして成果が少ない結果になる場合が多いと思います。又、不倫の事実を知ってから3年以内に提訴しないと時効で請求が却下されるリスクもあります。更に、男女関係の訴訟を専門に傍聴するマニアもいて、雑誌ネタになったりしてプライバシーが侵害され、当事者の社会的名誉が深刻に毀損される場合も多いようです。
不倫など男女関係を原因とする慰謝料問題は、双方の社会的地位等への配慮から、大半が法廷外で、 「示談書」等を通じての密かな解決が計られています。裁判所外における私的な慰謝料交渉で、脅迫等とは無縁な協議を行えば、判例などに拘束されませんし、訴訟における慰謝料相場などにも左右されません。話合次第では、3年間の時効も関係なく、慰謝料の合意ができる場合もあるでしょう。
法廷外の私人間の解決では、私的自治の原則が優先して、公序良俗に反しない限り、示談書でどういう取り決めしても自由です。 双方の社会的立場を考慮してライバシーを守るためにも、経済性の点からも、法廷外での私的な協議による短期間での慰謝料の決着が必須です。 当事務所では、このような解決を担保する「交渉戦略」と「示談書」について実践的なコンサルティングを実施しています。
尚、不倫を原因に離婚する場合は、相手方に不倫があるからと言って、精算的財産分与を拒むことはできません。
1.不倫の精算ー示談交渉と示談書
1.1示談交渉
慰謝料請求訴訟(不法行為に対する損害賠償請求訴訟)は、経済性や守秘性、かかる時間等の点で、極力避けるべきです。証拠資料収集のために興信所に依頼した場合、費用として100万円は最低覚悟すべきでしょう。認められる慰謝料額も少なく、弁護士報酬と合算して、マイナスとなる場合もかなりの程度あるようです。不倫など男女関係の訴訟専門に傍聴するマニアもかなりいて、情報はマニア間ですぐ拡散して、プライバシーが侵害される場合も多いようです。
大半の慰謝料請求は、法廷外で私的に潜行した交渉で行われています。法廷外における私人間の解決では、私的自治の原則が優先して、公序良俗に反しない限りは示談書でどういう取り決めしても自由です。私的交渉では、訴訟での慰謝料相場よりも高い解決が実現され、3.1に掲載する最高裁の最新判例が示す規範にも従う必要は全くありません。双方の社会的立場を考慮する私人間の交渉を通じて、短期間での解決をめざすべきです。 当事務所では、「交渉戦略」と「示談書」について実践的なコンサルティングを実施しています。
「相手に社会的地位がある」「相手が誠実な人」のどちらかのケースが交渉がスムーズに進行するケースでしょう。1~2ヶ月で示談書を締結できないようなケースでは、長期化してしまうケースが増えるようです。
2.2示談書
不倫相手と不倫された配偶者との間で、不倫相手が夫又は妻との不倫関係を解消して、その証として慰謝料を支払い、その余の請求はしない清算条項とその後の守秘義務等を定める契約書面です。感情的にもつれる場合も多く、最も法律用語の使い方や文章に神経を使い、慎重さが求められる書面です。
感情的に熱くなる本人同士ではなく、一方に兄弟などの代理人を立てる場合も多く、その場合は委任状の作成も必須です。守秘義務、不倫相手から不倫という不法行為の不真正連帯債務者である不倫した夫又は妻への求償権放棄、支払方法、精算条項なども含む深い法律知識や法律実務の知恵が求められる法的に難度の高い書面です。
2.訴訟での慰謝料相場
2.1100万~300万
離婚訴訟や慰謝料請求訴訟で認容される不倫等を原因とする慰謝料額は、通常100~300万です。多分、少ないと驚かれる方が大半でしょう。
平18,19年頃は、300-500万と言われていました。年々、額が減少する傾向にはあるようです。「東京家庭裁判所における人事訴訟の審理の実情」(東京家庭裁判所編集、判例タイムズ社刊)をご参照下さい。
2.2慰謝料額決定の要因
不倫・暴力等の不法行為の程度や頻度などの事情が額の決定に考慮されます。
「不倫関係が長期間継続している」「複数の不倫相手がいる」「次から次に不倫相手を替える」「DVが継続的に繰り返された/DVで入院加療した/警察に被害届が出ている等」の場合は、慰謝料額は増えるようです。DVで重度の後遺症が出た事件で、1,000万を超える慰謝料支払命令が出た裁判例もあります。二次的に、不法行為者(不倫配偶者・不倫の相手方等)の支払能力も考慮されます。
不倫や暴力の程度が激しい場合は、訴訟での決着も視野に入れるべきでしょう。 多分、調停では決着できないので、 調停・離婚協議に併行して、地裁に慰謝料訴訟の提起も検討すべきです。家庭裁判所に申し立てる離婚訴訟の関連請求として慰謝料請求訴訟を併合することも可能です。(人事訴訟法17条)
3.不倫慰謝料請求に関する法規範
3.1不倫相手に対する慰謝料の類型
不倫慰謝料の類型 | 第三者から侵害された権利(保護法益) |
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離婚原因慰謝料 |
・婚姻共同生活上の夫又は妻としての地位に結びつく人格権・人格的利益ないし名誉。 ・他方の配偶者の夫又は妻としての権利。(最高裁昭和54年判決) ・貞操維持請求権(守操義務) |
離婚慰謝料 |
・婚姻関係ないし婚姻生活の平穏・平和の維持。 ・婚姻共同生活を維持するか、離婚をして解消するかの自己決定権 |
3.2妻と不倫相手から二人分の慰謝料をとれるか?
精神的損害を受けたのは不倫された夫一人だけです。妻と不倫相手の二人に請求することはできても、総額では、一人分の慰謝料しかとれません。ここを勘違いする方が多いので、注意して下さい。
不倫した妻とその相手方の二人が、共同で、夫に損害を与えたと考えます。二人が加害者なので、二人を連名にして慰謝料請求するか、とりあえず一方だけに請求するかは、被害者の夫に選択権があります。不倫に関係した二人の行為は、「共同不法行為」と呼ばれ、不倫相手だけに請求しても、二人の不真正連帯債務となるので、 妻の不倫相手は 妻にその分担額を請求・求償することが可能です。
夫は、後刻に、妻にも慰謝料請求できますが、既に妻の不倫相手から夫に支払われた額や、不倫相手から妻への求償の有無や額を判断して、裁判所は慰謝料額を判断します。 ゼロも十分あり得ます。
私的な裁判所外での交渉では、必ずしも、この考え方に拘束されません。
3.3慰謝料請求と時効
慰謝料請求は、不倫等の不法行為を知った時から3年で時効消滅します(民法724条)又、知っていても、知らなくても、不倫等の行為があった時から20年で経過すると請求できません。(20年間の除斥期間)
協議離婚や調停離婚後に不倫が発覚した時に問題になります。特に、調停離婚では精算条項(調書に書かれた事項以外に争点がない事を確認する条項)が設けられるのが通常なので、すんなり行かない場合が多いようです。
離婚当時や調書締結時に知り得ず、かつ不倫があってから20年以内であれば、時効消滅していないので、慰謝料請求は一応可能であるでしょう。地裁に損害賠償請求訴訟を提起して請求します。家裁でも一応調停は受け付けますが、実効性が乏しい場合が殆どです。 慰謝料を請求する側は、離婚当時・調書締結時に知り得なかった事や、不倫の事実について、客観的証拠で立証する義務があります。
4.不倫慰謝料に関する判例
4.1離婚原因・不貞慰謝料判例のリーディングケース
最高裁昭和54年3月30日判決は、離婚原因・不貞慰謝料のリーディングケースとなっている判決です。肉体関係・性交の存在という客観的・外形的事実のみの存在を権利侵害の要件事実としており、肉体関係を結ぶに至った事情・背景等は違法性を阻却しないし、慰謝料認定の要件にならないと明確に判示した。
一方の配偶者と不貞相手の第三者との男女間の肉体関係が、①自然の愛情に基づくものか②誘惑によって肉体関係をもったかにかかわらず、故意又は過失で、他方の配偶者の夫又は妻としての権利を侵害した場合は、精神上の苦痛に対する損害賠償義務がある。
- 不倫慰謝料判例のリーディングケース(最二判昭和54.3.30)
4.2婚姻破綻と不貞慰謝料
最高裁平成8年6月26日判決は、長らく破綻状態にあった夫の不貞相手の女性に対する妻の慰謝料請求を否認して以下の通り判示した。
甲の配偶者乙と第三者丙が肉体関係を持った場合において、甲と乙との婚姻関係がその当時既に破綻していたときは、特段の事情のない限り、丙は、甲に対して不法行為責任を負わない。丙が乙と肉体関係を持つことが甲に対する不法行為となるのは、それが甲の婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する行為ととなるからで、甲と乙との婚姻関係が既に破綻していた場合には、原則として、甲には、このような権利又は法的保護に値する利益はない。
- 婚姻破綻と不貞慰謝料(最三判平8.6.26)
4.3第三者に対する離婚慰謝料請求の要件
妻と勤務先で知り合った第三者との不貞関係が夫に発覚した頃には男女関係が解消され、その後も夫婦は同居を継続したが、子の大学進学を機に5年後に調停離婚した。その後、元夫が、離婚慰謝料を第三者に求めた事案について、最高裁平成31年2月19日判決は、離婚慰謝料の請求を否認し、以下の通り判示した。
協議上の離婚や裁判上の離婚のいずれでも、離婚による婚姻の解消は,本来,当該夫婦の間で決められるべき事柄である。
したがって,夫婦の一方と不貞行為をした第三者は,不貞行為を理由とする離婚原因・不貞慰謝料責任を負う場合があっても、不貞行為により婚姻関係が破綻して離婚したとしても,直ちに,当該夫婦を離婚させたことを理由とする不法行為責任を負わない。
第三者が離婚慰謝料の責任を負うのは,単に不貞行為に及ぶにとどまらず,離婚させることを意図してその婚姻関係に不当な干渉をするなど離婚のやむなきに至らしめたと評価すべき特段の事情があるときに限られる。
夫婦の一方と不倫行為をした第三者は、夫婦が最終的に離婚しても、離婚原因・不貞慰謝料責任を問われることはあっても、離婚を意図して夫婦間の関係に不当干渉しない限りは、直ちに離婚慰謝料責任を負わないとの見解が示された。尚、本件では、元夫が請求できたであろう離婚原因・不貞慰謝料請求権は、事実を知ってから3年以上経過し時効消滅していたので、離婚慰謝料の請求訴訟を提起したものと思われる。
- 第三者に対する離婚慰謝料請求の要件(最三判平31.2.19)
5.不倫した妻に財産分与する義務はないか
財産分与の内、中心的な「精算的財産分与」は、妻に不倫等の有責要因があっても、法的な財産分与義務は残ります。精算的財産分与は、夫婦の協力扶助で形成された夫婦共有財産を原則2分の1ずつで分割して精算するものなので、有責要因でその内容が変わることはありません。財産分与の基本的考え方は財産分与ページの以下リンクを参照して下さい。
不倫・暴力等の有責要因は、慰謝料という不法行為に対する損害賠償請求で決着するのがスジです。しかし、実務では、慰謝料相当額を財産分与額から差し引いて、離婚給付額を決めるという事も広く行われていて、慰謝料的財産分与と呼ばれています。
6.不倫メールを証拠に残すには?
殆どが携帯のメールでしょう。プリントアウトは簡単に偽造できるので、証拠能力が低くなります。メール部分を開いて、それを写真に撮ることがお奨めです。メールが大量の場合は、2-3通だけ写真に撮り、残りはプリントアウトしておくだけでいいでしょう。