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養育費ー養育費算定表の考え方と計算方法は難しくない!

養育費は、子どもを監護する親(監護親・権利者)に対して、他方の親(非監護親・義務者)が子の生活費を父と母の収入比率に応じて分担する制度です。親権の有無とは、直接の関係はありません。

養育費は、長期に亘る取り決めなので、公正証書等で債務名義にすることが決定的に重要です。2020年4月施行の改正民事執行法で、養育費の強制執行がやりやすくなりました。

養育費の取り決めは、事情の変更に合わせて協議して変更する原則になっています。再婚も、事情変更の一例で、再婚相手との間で新しい子が誕生したりした場合は、減額される場合もあります。父等の義務者の収入が増えた場合は、養育費は増額されます。

養育費の額は、家庭裁判所が発表する算定表に基づいて決められることが多いようです。算定表は、2019年末に、全般的に増額の方向で改訂されました。

養育費について合意ができない場合のために、家庭裁判所における養育費調停・審判の制度があります。

1.養育費とは?

1.1親権者と監護者

離婚後に、子供を養育・監護(カンゴと読み、監督保護の略です。)する親(=監護親・権利者)に対して、 もう一方の親(=非監護親・義務者)が「子の監護に要する費用の分担」(民法766条1項)として支払う費用を「養育費」と言います。

父親が親権をとった上に、自ら子を監護・養育している時は、母親が父親に養育費を支払う義務があります。(性に中立的な規定であることに注意を。)

時に、「親権と監護権の分属」と言って父親が親権者であるが、母親が子供を監護・養育している場合があります。この場合には、監護者である母親が、親権者の父親に対して養育費を請求する権利をもちます。養育費は監護に要する費用であって、親権者は自ら子供を監護する場合のみ養育費の請求権利者であることに注意して下さい。親権者が養育費の支払義務者である場合もあるのです。

1.2養育費算定表の基本理念

非監護親と同居していると想定した子の生活費を、非監護親と監護親の収入比率で按分した額が養育費になります。

非監護親と同等の生活レベルを子に保障するという考え方(「生活保持義務」)で養育費算定表が作成されています。 「一切れのパン・一椀の粥をも子と等しく分け合う義務」とも言われて、どんな低い収入でも、養育費を分担する義務を免れません。
生活保護費用は、生活保護法上、扶養に使用することが禁じられているので、生活保護受給者からの養育費徴収はできません。

直系血族間と兄弟姉妹間の扶養義務は、生活扶助義務と呼ばれて、余裕がある時のみ生活費を扶助すれがよい程度であるのに比較して、 民法上、養育費の義務性は極めて強いことに着目して下さい。

2.養育費の協議項目と書面化

養育費の取り決めは、公正証書等の書面でかつ債務名義となるような取り決めにすべきです。2020年4月1日施行の改正民事執行法で、債務者(非監護親)の給与・預貯金差押がより容易となったので、強制執行認諾条項付の公正証書を作ることの価値はより高まっています。民事執行法改正の概要については、下記リンクを参照して下さい。

2.1養育費の始期・終期

「始期」とは、養育費支払を開始する月のことで、離婚する月等を始期とする場合が通常です。

「終期」とは、養育費支払いが停止される月のことです。令和4年4月1日に施行される改正民法で成年年齢が18才となりますが、養育費の終期は、子が未成熟子(=経済的に自立していない子)である限り、従来通り、20才とするのが家庭裁判所の判断です。(「養育費、婚姻費用の算定に関する実証的研究P61」(司法研修所編 法曹会が2019年12月23日刊行)

終期を大学卒業となる22才まで(「満22才となった以降の最初の3月まで」)とする条項もよく見られます。特に、両親とも大学卒の場合は、22才とする場合が殆どです。これは、終期を「確定期限」として設定していますが、「大学卒業まで」など「条件」を終期とすることも法理論的には可能です。しかし、浪人や留年の問題があり、条件とするのは義務者に厳しすぎるので、通常は、終期は「期限」とすべきだとの考え方もあります。

2.2支払頻度

事情変更の問題もあるので、各月払いとするのが通常です。一括払いの合意もありえますが、問題もあります。下記リンクを参照して下さい。

2.3支払い時期・期限

月末限り(「月末までに」の意味)とするのが通常です。

2.4支払方法

振込が通常です。振込費用は、持参債務が債権法の原則なので、義務者(支払者)の負担が原則です。

2.5特別出費条項

子の病気、ケガ、進学等でかかる費用は、養育費の外数とし、その分担について別途協議する等の条項を設けるのが通常です。

2.6養育費協議結果の書面化

子が成人するまでの長い期間の約束なので、言った言わないにならないように、書面化が必須です。公正証書又は私文書等で書面化します。適切な法律用語を駆使し契約書全体に目を配った公正証書を作成するのは、養育費の履行確保のために絶対条件です。

「親権者」「面会交流」「財産分与」「年金分割」など他の離婚条件とまとめて強制執行認諾条項を付した「離婚給付等契約公正証書」とするのが通常です。
公正証書を債務名義として養育費の債務履行支払を強制執行するだけでなく、後々、離婚後に紛争が生じた際の強力な証拠になります。

私文書の方が、一見、費用が安いように見えますが、子どもの成年や大学卒業までの長い期間には文書の各条項の解釈等をめぐる争いが生じる可能性が高く、裁判等の紛争解決費用や公正証書とすることにより義務者が感じる心理的プレッシャーによる履行確保の可能性が高まることや強制執行手続きの容易さを考慮すると、結局安くて時間がかからないのは公正証書作成です。

2.7改正民事執行法

改正民事執行法が2020年4月1日に施行され、以下の通り、養育費等の扶養料債権の強制執行が容易となりました。

財産開示制度の充実

差押等の強制執行の対象となる預貯金、給与、不動産等の債務者財産を開示する制度は、2003年に創設されましが、裁判に出頭しない場合や真実を告げない場合の罰則を強化して、債務者の財産開示が実効性のあるものとなりました。(過料という行政罰から罰金・懲役の刑事罰へ)

情報取得手続制度の創設

給与債権に関する情報取得手続:養育費、婚姻費用等の扶養料債権の場合は、裁判所に申立てることにより、裁判所が、市町村、日本年金機構等に対し、債務者の給与債権の情報(勤務先の情報等)の提供を命じる手続が創設されました。これにより、給与の差押が容易となっています。

預貯金債権に関する情報取得手続:債務名義をもつ債権者(債権の種類に限定なし)が裁判所に申立てることにより、裁判所が銀行等の金融機関に対して、預貯金のある支店・口座番号・金額等の情報提供を命じる手続が創設されました。

3.養育費の減額・増額請求:事情変更の原則

離婚協議や調停調書で定めた養育費額は、一定の条件があれば、変更が可能です。

3.1事情変更の原則

養育費の合意時に、予見できなかった事情が発生すれば、養育費の増額・減額の請求ができます。事情変更による養育費の増・減額を直接規定した民法の条文はありませんが、事情変更による扶養料の増減額について規定した民法880条を準用又は類推適用をして、事情変更を原因とする養育費を変更することが、裁判実務として定着しています。

3.2事情変更の例

収入が、会社の業績や転職などで大幅に上下した場合や、再婚相手との間で子供が誕生して扶養する子供の数が増えた場合などです。 10%程度の収入の増減では難しいようです。

事情変更の要因がない場合、調停そのものは可能ですが、調停がまとまらず審判に移行した場合は、審判も裁判なので、裁判官が養育費の増減額を命じる可能性は低いでしょう。

4.再婚と養育費

離婚数の増加と比例して再婚数が増加しており、いわゆるステップファミリーが増えています。それに伴い、養育費の減額請求を求める事例が増えていて、養育費相談のかなりの割合を占めます。

再婚により新しい父や母が、連れ子に対して扶養義務をもつか否かがポイントで、養子縁組の有無から判断されます。
再婚後に新しい扶養家族が誕生すると、子ども間では平等なので、子の生活費が減少して、養育費減額の原因となり得ます。

4.1元妻が再婚したら、元夫から養育費はとれないか?

子供が再婚した夫と養子縁組しない限り、実父である元夫の養育費支払義務は続きます。子供から見て、再婚相手は、血のつながりもない単なる母の再婚相手に過ぎず、互いに姻族同士です。姻族間では、扶養義務がありません。(民法877条)

しかし、子供が再婚相手と養子縁組した場合は、扶養義務は、劇的に変化します。養子縁組により、再婚相手は血族化します。(民法727条)養父として、子供の扶養義務が発生します。いわゆる常識とは離れているかも知れませんが、養父の扶養義務の方が、実父より、重くなると言うのが裁判例です。生活保護基準を用いた最低生活費以上の基礎収入が養父にあることを理由に、実父の養育費をゼロにした裁判例もあります。(神戸家裁姫路支部審判平12.9.4 家裁月報53巻2号151頁)

従い、元妻が再婚したら養育費支払は終了するという約束や条項は望ましくないでしょう。家庭裁判所で無効とされる可能性が大きいと思います。

再婚のみして養子縁組していない夫でも、所得税法上は、子供の一親等の姻族なので、子供を再婚した夫の扶養家族にして扶養控除の適用が可能です。民法と税法の考え方の差から来るものです。尚、現在、児童手当の存在を理由に、16才未満の子の扶養控除制度は廃止されており、再婚夫は、16才未満の連れ子を税法上の扶養家族とする道は閉ざされています。

4.2元夫が再婚妻との間に子が誕生、養育費は減額できるか?

元夫は、扶養義務者が増えたので、基本的に減額が可能です。元夫の生活費を元妻の子供と再婚妻の子供との間で配分するので、子供一人当たりの生活費が減少し、養育費が減額されるという理屈です。

しか、再婚妻にも二人の間でできた実子に対して当然に扶養義務があり、再婚妻の収入(働いていなければ、パート労働等の賃金センサスを適用した 潜在稼働能力を採用して年100万強を収入とする)から充てられる子への扶養額を考慮する必要があります。具体的には、調停では、 再婚妻と生まれた子の生活費を元妻との子の生活費より低く設定するような実務が行われる場合が多いようです。再婚妻との間の子の生活費指数を低く設定したり、 夫の基礎収入額を増やしたり、やり方は、具体的事情に応じて、各種の考え方あり、自動計算できるような客観的算式はありません。あっても信用しない方が無難です。

5.養育費取らない約束の法的性格

「養育費は請求しない」と離婚協議書等で、両親が約束することは法的に可能です。権利の放棄は、自由意思でできるからです。

しかし、子ども自身の親への「扶養請求権」まで、親権者と言えども放棄することはできません。子供の独自な権利なので、子どもの名前で扶養請求すれば、扶養料として養育費をとることは可能です。具体的には、子どもを申立人として母等の親権者を法定代理人として扶養料請求は可能です。実際の調停や審判には、法定代理人のみが出席します。

6.養育費の支払方法:例月払と一括払

養育費は、「定期金債権」と言われ、各月毎の支払いが原則です。但し、双方が合意すれば、一括払も可能ですが、「事情変更」の問題を考慮すると、各月払いにする方がが望ましいと思います。

一括払いの場合は、贈与税がかかる場合もあるので、注意して下さい。(信託基金化等工夫すれば無税化も可能かも知れませんが。)養育費が、「必要な都度、直接子供の養育の用に」に支払われてれば、贈与税は非課税となる原則が相続税法基本通達等に明記されています。(相続税法21条の3、相続税基本通達21の3-5)一括払いとすると、「必要な都度」でなくなり、贈与税を請求される可能性もあります。実際に請求された実例もあると聞いています。

7.養育費・婚姻費用算定表

養育費算定表は、義務者(非監護親)の基礎収入から子の生活費を導き、それを権利者(非監護親)と義務者の基礎収入費で按分したものをグラフ化したものです。私立校の学費や学習塾の費用等は、義務者が了解していたかどうかが鍵となりますが、黙示で了解していたと理論構成も考えられます。

7.1算定表の入手方法

2019年12月23日に、「養育費、婚姻費用の算定に関する実証的研究」が公刊されて、裁判所の算定表は改訂されました。その変更内容など概要については、7.2を参照して下さい。

算定表は、下記家庭裁判所のサイトからダウンロードして下さい。PDFファイルの表一覧があり、(表1)から(表19)まで19の表が出てきます。従来は、19の表を一つにまとめたファイルでしたが、 改訂版では、19の表が別々のファイルに分割されています。

7.2算定表の見方・読み方

表1~表9までが養育費、表10~表19までが婚姻費用です。一番下に、「※養育費・婚姻費用算定表について(説明)」とあるPDFファイルがあり、算定表の 読み方についてのガイドになっています。 表は、子供の数、子供の年齢(15才未満か15才以上)毎の表となっているので、 自分に該当する子供の数と年齢に対応する表を見つけて下さい。尚、婚姻費用は、子供がいない夫婦だけの表があるため、養育費より、 1枚だけ表の数が多くなっています。

算定表では、養育費・婚費を求める者が、「権利者」と表記され、支払う側が、「義務者」と表記されています。権利者・義務者とも、給与所得者と自営業に別れています。給与所得者は源泉徴収票の税込み収入が年収です。自営業の方は、確定申告書の「課税される所得金額㉖」(課税所得)が基準となります。しかし、「配偶者控除」「扶養控除」、「青色申告特別控除額」、現実の支払いがない「専従者給与額の合計額」等の実際に支出されていない項目と特別経費として考慮済みの「医療費控除」「生命保険料控除」「損害保険料控除」を課税所得に加算した額が年収になります。結果的に、下記の算式になります。

自営業の年収=所得金額⑨ー社会保険料控除+青色申告特別控除+現実の支払なしの専従者給与合計

権利者の年収を横軸、義務者の年収を縦軸に求めて、横軸と縦軸の交点が、「月額」ベースの養育費・婚費額となります。 6-8万等、3万円単位の幅になっています。権利者が働けるのに働いていない場合は、潜在稼働能力が認定されるので、パートの年収100~110万程度を横軸にとって下さい。

7.3算定表改訂の概要(2019年12月23日)

従来の算定表は、2003年に当時の統計資料をベースに策定されたものです。この間の経済情勢の変動を踏まえた5年間の統計資料(2013年度~2017年度)で算定表の諸数値を見直したもので、 算定表のベースになっている基本的な考え方には、全く変化はありません。

子の生活費指数の改訂が主なもので、15才未満の生活費指数は、55から62に増加し、15才以上は、90から85に減少しています。 15才未満の養育費が増加し、15才以上の養育費が低下し、2人以上の子どもをもつ世帯の養育費総額に大きな変動がないように配慮されているようです。 しかし、職業費等の見直し等により基礎収入比率が全般的にアップされているために、養育費・婚姻費用額は殆どのケースで底上げされたと考えて間違いないと 思います。

日弁連は、2017年に「新算定表」を公表して、「裁判所の算定表額は低すぎる」「裁判所は母子家庭の貧困を助長している」等 の多くの批判をしてきましたが、裁判所は、算定表の基本的考え方を全く変えることなく、統計数字の見直しだけで、 結果的に養育費・婚姻費用の増額をはかり、日弁連なり世論の批判に答えたもののようにも思います。

日弁連の新算定表における基本的枠組みの抜本的改訂案については、裁判所は、ことごとく反論していて、殆ど全てを不採用としています。従い、今後とも、家庭裁判所における養育費・婚姻費用の審判・調停では、日弁連の新算定表は無視されるように推測します。

7.4算定表の考え方

養育費を支払う側(義務者)と養育費を受け取る側(権利者)の双方の税込み年収が基準です。児童扶養手当・児童手当・就学援助等の国・地法公共団体の公的扶助は、年収には算入しません。本人が働いて得た収入でないし、永続性の保証も全くないので、計算には入れません。

税込み年収から、税・社会保険料等の公租公課、被服費・交通費等の職業費、住居費・保険料等の特別経費の3つの必要経費を控除した額 (=基礎収入)が、養育費の財源になります。義務者が収入を得る必要経費をまず確保した上で計算するので、決して、義務者が生活できない養育費額にならない原理・仕組です。

義務者である親の生活費指数を100、15才未満の子の生活費指数は62、15才以上の子は85として、子供に割り振る生活費を計算します。(基礎収入に子供の生活費指数の比率をかけて義務者と同居した場合の子供の生活費を求めます。)

7.5計算例

前提

  • 父(義務者):年収800万
  • 母(権利者):年収200万
  • 子:2人(10才・16才)母が監護

権利者・母と義務者・父の基礎収入

800万×0.40=320万
200万×0.43=86万

父の0.40、母の0.43は基礎収入比率です。基礎収入比率は、給与所得者と自営業者別に税込収入ブラケット毎の比率が裁判所から公表されています。

子の月間生活費

子二人合計の養育費

7.6私立校学費

養育費算定表上の教育費は、公立学校の費用を前提としています。私立学校の授業料等については、公立校費を上廻る額を算定表の養育費に附加する必要があります。

一般的には、養育費を支払う側(義務者)が、子供の私立校の入学を了解していた場合は、調停実務では、算定表の額に附加する運用が主流です。 離婚後に、義務者に伝えることもなく私立校に通学する場合、その負担を調停で求めるのは難度が高いかも知れません。

平均収入に対する公立学校教育費相当額(絶対額)を前提となる統計資料から求めて私立学校教育費との差額を上乗せする方法や生活費指数中に公立学校教育費が占める割合を求めてそれに養育費額を掛けて公立学校教育費相当額を導き差額を上乗せする二つのやり方が家庭裁判所でとられています。(ケース研究287号P111 家庭事件研究会刊)

離婚後に、子供の将来の進路についての父母間や面会交流を通じて子と非監護親の間で意思疎通をよくしておくことがとても重要です。

7.7その他の養育費への附加費用

学習塾や稽古事の月謝、保険適用外の治療費など、養育費に附加されるべき経費か否かで揉めることがまま見られます。

私立校費と同じく、義務者が了解していたかどうかが、ポイントになります。特に、調停不成立後の審判では裁判なので、そのような判断がなされる場合が大半です。

8.養育費の不払いと未払い

養育費の不払(養育費債務の不履行)は、履行日から、催告することなく、法定利率による遅延利息が発生します。
しかし、不払いのままで10年が経過してしまうと、10年の債権消滅時効にかかってしまいます。

養育費の取り決めがない場合は、債務そのものがないので、遅延利息も発生しません。家庭裁判所に養育費審判を申立てると、通常は、申立月から養育費債務が発生します。

8.1養育費の不払い(債務不履行)

離婚協議書や調停調書など養育費支払を約した書面があるにも拘わらず、養育費が支払われない場合です。養育費を支払うべき義務者の債務不履行となるので、本来の履行日から法定利率による遅延利息が発生し、元本の養育費と共に、債権の消滅時効が進行します。時効中断等がない場合は、履行日から10年で債権は時効で消滅します。

公正証書や調停調書等の債務名義をもつ場合は、給与差押等により、養育費権利者による債権の強制執行ができ、時効も中断します。債務名義をもたない場合は、私文書の離婚協議書等を付して簡裁に「支払督促」の手続をすることにより、債務名義が取得できます。その後に強制執行します。但し、私文書で、条項内容が法的に明確でない場合、「支払督促」の手続はできません。

8.2養育費の未払い

権利者と義務者の間に、養育費について何の取り決めもない場合で、養育費債務が未だ発生していない点で、8.1の「養育費の不払い(債務不履行)」と異なります。

元々債権が存在していないので、延滞利息も発生しようもなく、元本について何時まで遡及させるかは、当事者の協議次第です。家庭裁判所による調停の場合は、離婚時等には遡及せず、調停申立時まで遡及することが通常です。「権利の上に眠れる者は救済しない」という近代法の理念からきています。勿論、当事者同士が異なる合意をしたのならそれが採用されます。

9.養育費と調停

父母間で養育費に関して合意できない場合は、養育費調停・審判に頼らざるを得ません。調停で合意できなくても、裁判官による審判に移行するので強制的な解決が計られます。調停も審判も、弁護士に依頼することなく、一人だけで遂行できます。

相手方が調停に出席しなかったり、収入証明資料を提出しない場合は、賃金センサスという統計資料も用いて審判か、「調停に代わる審判」で強制解決される場合も多いようです。

9.1養育費の調停

離婚時に養育費の取り決めができなかった場合や、離婚時の協議で決まっていても、事情変更から養育費の減額・増額を求めたり、 養育費の不払い等のトラブルがある場合に、家庭裁判所に養育費の調停申立てをすれば、 家庭裁判所が関与して、養育費を協議・決定し、トラブルを解決することができます。

申立先は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所です。調停委員会は、双方から客観的収入資料の提出を求め、双方の特別な事情を聴取します。 養育費額は、双方の希望額が基本となりますが、大きくかけ離れていた時は、 算定表をベースに行われます。

調停で合意が成立しない場合、調停委員会を構成する裁判官による審判(=裁判)に移行し、強制的に解決されるのが特徴です。裁判といっても、裁判官は調停時点からの事情を熟知し、双方の収入資料を基礎に算定表に準拠した審判を志向するので、本人のみで十分に対応可能で、弁護士を依頼する必要はありません。

養育費の調停は、合意できない場合や相手方が出席しない場合は、申立人の便宜の為に、 「調停に代わる審判」をまず行い、 異議申立てがあった場合に、正式審判に移行する手続が最近では多いようです。

9.2相手方が調停に出席しない場合

調査官による出頭勧告を経て、通常2回以上連続して調停に出席しない場合は、担当裁判官の裁量により審判(=裁判)に移行して解決が計られます。

平成25年以降は、正式審判に移行する前に、前項で説明したように、調停の延長上である 「調停に代わる審判」(284条審判)が行われる場合も増えています。正式審判に移行すると、一般的には、相手方の収入証明資料がなくても、賃金センサス(※)に基づいて相手方の収入額を裁判官が認定し、強制執行力をもつ審判が下されて、強制的な解決が計られます。審判書は、判決書や調停調書と同じく、債務名義です。

(※)賃金センサス:厚生労働省が各年作成している性別、年齢別、学歴別、職業・産業別の賃金統計。指定統計で、最も権威ある統計資料とされています。

9.3調停に出席しても、不十分な収入証明資料しか提出しない場合

調停委員会は、まず、十分な証明資料の提出を求めますが、それでも、提出されない場合は、原則として、前記賃金センサスに基づいて、調整が行われます。

9.4離婚調停と養育費

養育費は、財産分与と並んで、離婚調停における主要争点です。
離婚後に申し立てる養育費調停と異なり、離婚意思が一致しなかったり、他の離婚条件で合意できず、 離婚調停が不成立になった場合は、養育費額で合意していても法的に何の意味もありません。自動的に裁判(審判)に移行しません。時間をおいて再度離婚調停を申し立てるか、離婚訴訟を提起して解決せざるを得ません。

離婚訴訟では、附帯処分の一つとして養育費が判断されます。 離婚訴訟は、離婚を認容するかどうかが唯一の争点であり、 親権者指定、養育費、財産分与等は附帯・付随する問題という扱いです。<人事訴訟法32条>)

9.5養育費支払の遡及

養育費支払や減額・増額の遡及時期は、原則として申立時です。調停で、離婚時に遡及する等の合意ができればそれに従いますが、合意できない場合は、申立時への遡及で調整されます。

審判では、必ず、申立時に遡及します。申立時までは、権利者は、養育費なしに問題なく生活できていたのだから、申立前には遡及しないという考え方から来ています。別の言い方をすれば、申立て(=養育費を請求)していない時まで、養育費は遡らないという理屈です。「権利の上に眠れる者は、救済されず」という法諺に由来していると言われています。

9.6養育費の履行勧告

家庭裁判所での離婚調停・養育費調停・養育費裁判等で決められた調書・審判書等の債務名義を保有する者は、相手方(=義務者)の養育費不払いがある場合は、家庭裁判所調査官による「養育費の履行勧告」を受けられます。

費用は無料で、書記官への電話連絡だけで申立てが可能です。しかし、強制執行手続ではないので、必ず養育費をとれる保障はありませんが、裁判所の調査官から本人に直接電話することもあるので、 かなりの心理的プレッシャーを感じる人も多いようで。特に権威に弱い義務者は、養育費支払を再開する人が多いようです。

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