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不倫慰謝料は、性交等の事実のみで判断ー背景・事情は無関係(裁判例)

不倫・離婚原因慰謝料は、第三者が、配偶者の一方と不貞行為を行って、他方配偶者の婚姻共同生活上の地位に結びつく人格権・人格的利益ないし名誉や他方配偶者の権利を侵害した場合に、他方配偶者の精神的苦痛を慰謝するために履行される損害賠償です。

最高裁昭和54年3月30日判決では、他方配偶者と肉体関係をもった第三者(本件では女性)は、肉体関係をもったことに故意又は過失がある限り、他方の配偶者の夫又は妻として権利を侵害しているので、他方配偶者の被った精神上の苦痛を慰謝すべき義務がある。自然の愛情から生じた等の肉体関係を結ぶ至った事情や背景は違法性を阻却しないとして、不貞相手の女性の行為は妻に対して違法性を帯びないとした原審を破棄した。

肉体関係・性交の存在という客観的・外形的事実のみを権利侵害の要件事実としており、肉体関係を結ぶに至った事情・背景等は違法性を阻却しないと明確に判示した。

又、一方の争点であった未成年の子らからの慰謝料請求については、子らが日常生活において父から愛情を注がれて父の監護、教育を受けることができなくなつたことと、不貞行為との間には、女性が害意をもつて子に対する父の監護等を積極的に阻止したなど特段の事情のない限り、相当因果関係がなく、損害賠償責任を構成しないと判示した。

事案の概要

  • 昭和23年(1948年)7月2日 原告妻と夫は婚姻
  • 昭和23年、33年、39年に3人の子が出生
  • 昭和32年 夫は銀座のアルバイトサロンに勤めていた被告女性と知り合って肉体関係を結び、昭和35年11月に一女が出生
  • 昭和39年2月頃 妻が、女性と夫との関係を知ることとなり、不倫を責めたことから、既に妻への愛情を失いかけていた夫は、妻子と別居し、一時鳥取県下で暮らしていた。
  • 昭和39年 女性は銀座でバーを開業し、夫との子を養育
  • 昭和42年頃 夫は上京して女性と同棲するようになり、その状態は現在まで継続

裁判所の判断

慰謝料請求は、原告は妻及び子3名から提起されているが、当初から「妻からの請求」と「子らからの請求」に分けて判断している。

原審の東京高裁は、女性と夫が同棲する前後を通じて、女性が夫に金員を貢がせたこともなく、生活費をもらったこともないとを認定したうえで、女性と夫との関係は相互の対等な自然の愛情に基づいて生じたものであり、女性が夫との肉体関係、同棲等を強いたものでもなから、両名の関係で女性の行為は妻に対して違法性を帯びないとして、不法行為に基づく損害賠償請求を棄却した。

これに対して、最高裁は、下記理由から、原審における妻の請求に関する部分を破棄して、原審に差し戻しした。

  1. 一方の配偶者と肉体関係を持つた第三者は、故意又は過失がある限り、配偶者を誘惑するなどして肉体関係を持つに至らせたかどうか、両名の関係が自然の愛情によつて生じたかどうかにかかわらず、他方の配偶者の夫又は妻としての権利を侵害し、その行為は違法性を帯び、右他方の配偶者の被つた精神上の苦痛を慰謝すべき義務がある。
  2. 原審が、夫と女性の関係は自然の愛情に基づいて生じたものであるから、女性の行為は 違法性がなく、妻に対して不法行為責任を負わないとしたのは、法律の解釈適用を誤つたもの。

又、子らの請求については、下記の通り判示して、これを棄却した原審を支持し、妻の上告を棄却した。(尚、子らの請求部分については5名の裁判官中1名が相当因果関係があるとして反対意見を述べ、相当因果関係を否定した裁判官の1人が補足意見を述べている。)

  1. 妻及び未成年の子のある男性と肉体関係を持った女性が、妻子のもとを去つた夫と同棲するに至つた結果、その子が日常生活において父親から愛情を注がれ、父の監護、教育を受けることができなくなつたとしても、その女性が害意をもつて父親の子に対する監護等を積極的に阻止するなど特段の事情のない限り、右女性の行為は未成年の子に対して不法行為を構成するものではないと解するのが相当である。
  2. 父親がその未成年の子に対し愛情を注ぎ、監護、教育を行うことは、他の女性と同棲するかどうかにかかわりなく、父親自らの意思によつて行うことができるのであるから、他の女性との同棲の結果、未成年の子が事実上父親の愛情、監護、教育を受けることができず、そのため不利益を被つたとしても、そのことと女性の行為との間には相当因果関係がないからである。
  3. 原審が適法に確定したところによれば、子らの父親である夫は昭和32年ごろから女性と肉体関係を持ち、子らが未だ成年に達していなかつた昭和42年に夫と同棲するに至つたが、女性は夫との同棲を積極的に求めたものではなく、夫が妻のもとに戻るのをあえて反対しなかつたし、女性も子らに対して生活費を送っていたことがあつた。
  4. こののような事実関係の下で、特段の事情も窺えない本件においては、女性の行為は子らに対し、不法行為を構成するものとはいい難い。
  5. 女性には子らに対する関係では不法行為責任がないとした原審の判断は、結論において正当。

コメント

離婚原因慰謝料・不貞慰謝料の裁判例に関するリーディングケースとなった最高裁判例である。

他方配偶者と肉体関係をもった第三者は、故意又は過失がある限り、他方の配偶者の夫又は妻として権利を侵害しているので、他方配偶者の被った精神上の苦痛を慰謝すべき義務があり、自然の愛情から生じた等の肉体関係を結ぶ至った事情や背景は違法性を阻却しないとした。

肉体関係・性交の存在という客観的・外形的事実のみを権利侵害の要件としており、肉体関係を結ぶに至った事情・背景等は違法性を阻却しないと明確に判示した。

又、子からの不貞慰謝料の請求には、子の監護者との関係における不利益と不貞行為には相当因果関係がないとして否認した。

尚、不貞・不倫に関係する慰謝料は下記の通り分類され、それらに関係する最高裁判例を付記した。

不倫慰謝料の類型 第三者から侵害された権利(保護法益) 最高裁判例

離婚原因慰謝料
不貞慰謝料
破綻原因慰謝料

・婚姻共同生活上の夫又は妻としての地位に結びつく人格権・人格的利益ないし名誉。

・他方の配偶者の夫又は妻としての権利。

・貞操維持請求権(守操義務)

昭和54年3月30日判決(本件)

平成8年6月26日判決

離婚慰謝料
破綻慰謝料

・婚姻関係ないし婚姻生活の平穏・平和の維持。

・婚姻共同生活を維持するか、離婚をして解消するかの自己決定権

平成31年2月19日判決

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