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裁判では、婚姻が破綻状態にあると不倫慰謝料を請求できない

法的には、夫婦であっても、夫婦間の争いが絶えず、婚姻が既に破綻している場合まで、民法770条1項1号の貞操を守る義務が求められるのでしょうか?

最高裁平成8年6月26日判決は、「甲と乙との婚姻関係が既に破綻していた場合、原則として、甲には、婚姻共同生活の平和を維持する権利又は法的保護に値する利益があるとはいえない。」と判示しています。

従い、甲の配偶者乙と第三者丙が肉体関係を持った場合において、甲と乙との婚姻関係がその当時、既に破綻していたときは、第三者丙は甲の権利や法益を侵害していないので、丙は、甲に対して不法行為責任を負わないと明確に判断しました。

事案の概要

  • 昭和42年(1967年)5月1日 婚姻。
  • 昭和43年、46年に長女・長男出生。
  • 昭和55年 性格や金銭観の相違から不仲になると共に、夫が身内の婦人服製造会社に転職以降、残業による深夜帰宅が増え、妻は不満を募らせる。
  • 昭和57年 夫は独立することも考えたが、妻が反対したためD社に転職し、取締役就任。
  • 昭和58年以降 自宅の土地建物をD社の債務の担保に提供。
  • 昭和59年4月 夫はD社の経営を引き継ぎ、代表取締役就任、妻は個人債務を負う可能性を危惧して、強く反対し、自宅の登記済証を隠すなどしたため、喧嘩。夫が登記済証を探し出してD社のために抵当権を設定したことを知ると、妻は非難して財産分与せよと要求するようになり、帰宅時に包丁をちらつかせることもあり、夫婦関係は悪化。
  • 昭和61年6月頃 夫は別居する目的で家裁に夫婦関係調整調停(いわゆる離婚調停)を申立てたが、妻は一切調停に出頭しなかった。
  • 昭和62年3月、夫は大腸癌手術で入院中に、マンションを購入し、同年5月自宅を出てマンションで別居開始。
  • 昭和62年4月頃 夫は、スナックでアルバイトしていた女性と客として来店して知り合う。
  • 女性は、夫がマンションで独居して直接に離婚すると聞いて親しい交際をするようになり、昭和62年夏頃までに肉体関係をもつようになり、同年10月頃からマンションで同棲するに至った。
  • 平成元年2月 女性は、夫との子を出生し、夫は子を認知した。
  • 妻は、女性に対する不貞慰謝料を請求する訴訟を提起

裁判所の判断

妻の慰謝料請求を否認した原審・高裁の判断を、下記理由から正当として、妻の上告を棄却した。

  1. 甲の配偶者乙と第三者丙が肉体関係を持った場合において、甲と乙との婚姻関係がその当時既に破綻していたときは、特段の事情のない限り、丙は、甲に対して不法行為責任を負わないものと解するのが相当。
  2. 丙が乙と肉体関係を持つことが甲に対する不法行為となるのは、それが甲の婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する行為だからである。(最高裁昭和54年3月30日判決を引用)
  3. 甲と乙との婚姻関係が既に破綻していた場合には、原則として、甲にこのような権利又は法的保護に値する利益があるとはいえない。
  4. 認定された事実関係において、女性が夫と肉体関係を持った当時、夫と妻との婚姻関係が既に破綻しており、女性が妻の権利を違法に侵害したとはいえない。

コメント

最高裁昭和54年3月30日判決と同様に、女性と夫の肉体関係という客観的外形的事実が、妻側の保護されるべき法益が侵害しているかどうかという観点から、不貞慰謝料の可否を判断している。

夫婦の婚姻関係が破綻している時には、原則的に、夫婦双方に婚姻生活の平和の維持という権利・利益はないと明確に判示している。婚姻が破綻していることは、婚姻の平和が既に破られて謂わば戦争状態にあることを意味するので、当然な帰結であろう。

夫婦関係が破綻している夫婦間では、互いに、貞操を守る義務、守操義務がなくなるということを判示したとも言える。

尚、最高裁昭和54年3月30日判決は、保護されるべき法益を、「夫又は妻としての権利」としているが、本判決は、「婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益」と、より具体的に解りやすく定義している。

不貞・不倫に関係する慰謝料は下記の通り分類され、それらを規律する最高裁判例を付記した。

不倫慰謝料の類型 第三者から侵害された権利(保護法益) 最高裁判例

離婚原因慰謝料
不貞慰謝料
破綻原因慰謝料

・婚姻共同生活上の夫又は妻としての地位に結びつく人格権・人格的利益ないし名誉。

・他方の配偶者の夫又は妻としての権利。

・貞操維持請求権(守操義務)

昭和54年3月30日判決

平成8年6月26日判決(本件)

離婚慰謝料
破綻慰謝料

・婚姻関係ないし婚姻生活の平穏・平和の維持。

・婚姻共同生活を維持するか、離婚をして解消するかの自己決定権

平成31年2月19日判決

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