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年金分割の按分割合は、家裁審判では特別事情がない限り0.5(裁判例)

平成19年(2007年)4月1日の離婚時年金分割制度の施行直前に、最高裁・事務総局は以下のような一般的見解を表明しています。

「現行の被用者年金は、その性質及び機能上、基本的に夫婦双方の老後等のための所得保障としての社会保障的意義を有しているものであるところ、離婚時年金分割との関係においては、婚姻期間中の保険料等納付は、互いの協力により、それぞれの老後等のための所得保障を同等に形成していくという意味合いを有しているものと評価でき、対象期間における保険料等納付に対する夫婦の寄与の程度は、特別の事情がない限り、互いに同等と見るのが相当であると考えるのが、一般的見解である。」(「離婚時年金分割制度関係執務資料」P52最高裁事務総局編(司法協会2007.3刊)

上記の一般的見解の考え方を基礎に、按分割合を0.5とする裁判例が積み上げられているようです。(公刊されている裁判例は多くはありません。)別居期間が長い等の理由で0.5以下とすべきとする審判が申立てられ、高裁の抗告審まで争われている例が多いようです。平成21年以降は、本件の大阪高裁平成21年9月4日決定が多くの審判や抗告審で引用されている先例乃至リーディングケースとなっています。

年金分割に関する審判で、0.5以下の按分割合とした家庭裁判所での審判例は公刊資料で見る限りでは少なくとも3例はあるようですが、家庭裁判所で確定した1件を除いては高裁に抗告され、本件も含めて抗告審では、0.5に修正されています。

本件では、婚姻期間が36年でその内別居期間が14年に及ぶ夫婦の合意分割の按分割合について、原審の奈良家庭裁判所(奈良家審平21.4.17)では、同居期間中の年金分割の按分割合は0.5としたが、別居以降の第2号改訂者(元妻)への年金分割を却下しました。

元妻は、却下された年金分割の按分割合も0.5とするよう求め、元夫も同居時の妻の保険料納付の寄与を否定し、同居時の年金分割も却下するよう求めて、双方共に、大阪高裁へ即時抗告した。

大阪高裁は、年金分割制度の意義とその按分割合の考え方について以下のような判断を示した。

年金分割は、被用者年金が夫婦双方の老後等の所得保障としての社会保障的機能を有する制度であるから、対象期間中の保険料納付に対する寄与の程度は、特別の事情がない限り、同等とみて、年金分割についての請求すべき按分割合を0.5と定めるのが相当で、その趣旨は、夫婦の一方が被扶養配偶者である場合の3号分割にも現れている。特別の事情については、夫婦の寄与を同等とみることが著しく不当であるような例外的な事情がある場合に限られる。

本件に関しては、長期間の別居や元妻が宗教活動に多大の時間を費やしたことが、保険料納付に対する寄与の程度を同等以外とする特別の事情には当らないとして、一部原審を破棄して、同居時も別居以降も0.5の按分割合による年金分割を命じました。

元夫は、共済年金と厚生年金の双方に加入していたからか、年金分割は2つの事件に分かれています。平成27年(2015年)10月1日に施行された被用者年金一元化により、国家公務員共済組合、地方公務員共済組合及び私立学校教職員共済の各共済年金制度が厚生年金制度に統一されました。それ以前は、厚生年金と各共済年金は個別に年金分割する必要があるので、二つの年金分割事件が申したてられました。現在は、すべての年金の標準報酬等を合算するので、年金分割は1回だけ行われます。(尚、本件には、年金分割2事件と財産分与1事件が併合された事件)

本裁判例出所:家庭裁判月報62巻10号-54

事案の概要

 婚姻生活及び争訟の概要

  • 昭和47年(1972年)婚姻
  • 昭和48年、昭和51年に長女・二女出生
  • 昭和56年 妻が宗教活動に多くの時間を費やし始める
  • 昭和59年 妻は洗礼を受け、年間1000時間以上の伝道活動、宗教活動を巡って夫婦間の口論が多くなり、夫婦仲は険悪に。
  • 平成6年(1994年)夫は自宅を出て実家で生活し別居、婚姻費用は離婚確定まで支払
  • 平成6年 夫はA社を退職して、B社に再就職(A社在職時の年金分割とB社在職時の年金分割が2事件として係属、偶々、A社在職時が同居期間、B社在職時が別居期間と合致している。当初元妻側は、同居時の年金分割を求め、別途別居時の年金分割を追加申立したと思われる。)
  • 平成19年 夫は離婚訴訟を提起し、第一審(奈良家裁)で勝訴
  • 平成20年(2008年)最高裁で妻の上告棄却→離婚確定(婚姻期間36年、同居22年、別居14年、)
  • 平成20年 元妻は財産分与、年金分割2件の調停申立→調停は不調で審判移行→平21年4月の審判が即時抗告され、平21年9月に確定。

尚、元妻は、離婚訴訟で予備的反訴を提起せず、離婚後約2年弱で財産分与・年金分割が解決、離婚調停提起から最終解決まで5年はかかっていると思われる。

夫の主張

  1. 同居時も、元妻は、宗教活動に専念して家庭生活を顧みることなく、元夫の心労は筆舌に尽くしがたく、精神的にも物質的にも元妻は元夫の保険料納付に寄与したとは言えない。
  2. 別居後は、互いの親族の葬儀や長女の結婚式に参加することもない殆どの没交渉の状況にあり、その間過大な婚姻費用を取得し続けた元妻は、保険料納付に寄与したどころか、経済的な障害であったので、年金分割請求は却下されるべき。

妻の主張

年金分割制度は、別居していても、夫婦が共同して保険料を負担していることを基本認識としており、平成20年4月以降は、第3号被保険者期間は自動的に2分の1に分割される趣旨と異なる解釈が適用されるべきではない。

裁判所の判断

年金分割は、被用者年金が夫婦双方の老後等のための所得保障としての社会保障的機能を有する制度であるから、対象期間中の保険料納付に対する寄与の程度は、特別の事情がない限り、互いに同等とみて、年金分割についての請求すべき按分割合を0.5と定めるのが相当である。その趣旨は、夫婦の一方が被扶養配偶者である場合についてのいわゆる3号分割にも現れている。特別の事情については、夫婦の寄与を同等とみることが著しく不当であるような例外的な事情がある場合に限られる。

宗教活動に熱心であった、あるいは、長期間別居しているからといって、上記特別の事情に当るとは認められない。

過大な婚姻費用を取得し続けた元妻は、保険料納付に寄与どころか、経済的な障害であったとの元夫の主張は、婚姻費用が過大であったとまでは言えないので失当。

原審(奈良家裁)の判断

同居期間中については、年金分割の按分割合は0.5とするのが相当であるが、別居期間中は、既に没交渉で、共同生活が再開されることは期待できない状態であり、又、元妻は、別居期間中にやや多めの婚姻費用を受領していたので、元夫が負担していた保険料を共同で負担したとみることはできず、特別の事情があるということができるので、別居期間中の元妻の年金分割請求を却下する。

まとめ

婚姻期間の4割弱に当る長期間でかつ没交渉であった別居期間があり、多めの婚姻費用が負担されていた場合でも、保険料納付に対する夫婦の寄与を同等とみることが著しく不当な特別な事情にあたらないとした裁判例である。

特別な事情にあたるとして、元妻の別居期間中の合意分割を却下した原審を破棄して自らの決定をもって、年金分割制度の社会保障的機能を重視して、保険料納付の夫婦の寄与度を均等とする判断を示した裁判例であり、それ以降のリーディングケースになっているように思われる。

年金分割においては、制度の目的である社会保障的機能から別居は原則的に寄与を否定する特別な事情とはされず、別居後の寄与を原則否定する財産分与と異なる寄与の考え方を明確に示した裁判例である。

夫が婚姻住居を妻に分与し且つ一定の現金給付したことを理由に、妻の年金分割請求の却下等を求めた事件において、本決定を引用して、年金分割制度は、夫婦が共同で形成した財産の精算を目的とする財産分与制度とは異なるもので、離婚時に何らかの財産給付がなされたとしても、そのことが直ちに寄与度についての特別の事情にはあたらないとした裁判例もある。

大阪高裁の本決定では、併合された財産分与事件で、同居中の退職金、預貯金を対象に、元夫から元妻への財産分与497万を命じているが、年金分割の判断に何ら影響を与えていない。

尚、本決定では、別居期間中に元夫が負担した婚姻費用は、標準的な算定表で計算された婚姻費用より2割から7割程度多目と認めながらも、当事者が自発的に、あるいは合意に基づいて婚姻費用を分担している場合は、その額が当事者双方の収入や生活状況から著しく相当性を欠かない限り、過大であるとはいえないし、超過額を財産分与の前渡しと評価する原審を相当でないと判断している。

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