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年金分割の按分割合は、35年の別居があっても0.5(裁判例)

財産分与では、別居によって夫婦の扶助協力がなくなり共有財産が形成されなくなるとして、別居時を夫婦共有財産の精算時期とするのが実務上の通説です。

年金分割においても、別居期間があることを理由として、按分割合を均等以下とすることを求めた裁判例は大阪高裁平成21年9月4日決定を含めて数例ありますが、いずれも、高裁の抗告審等で0.5の按分割合とされています。

大阪高裁令和元年8月21日決定は、それらの裁判例の中でも、婚姻期間44年に対して別居期間が35年に及ぶ別居の態様が最も重い案件ですが、別居に至ったことに対して一方当事者に専らの責任が認められない限り、別居の事実は、双方当事者の寄与を同等としないような特別の事情にあたらないとしています。

0.5以外の按分割合を認めるような特別事情を認定するハードルはとても高いと言えます。

本裁判例出所:判時2443-53、家庭の法と裁判27号-66

事案の概要

  • 申立人と相手方は、1974年婚姻し、1977年まで長男・二男が出生。
  • 申立人(元妻)の不貞の疑いから諍いとなり、元妻は1983年ころに家を出て、そのまま同居することはなかった。
  • 2人の子どもは、元夫の実家に預け、元夫は仕事の関係から他市区町村に居住。
  • 1985年頃、双方は話合いをもったが、元妻は戻るつもりはないと述べた。
  • 1997年ころ、元妻は子(22才と20才)と再会し、元夫とも連絡をとり、元妻と子二人は同居することとなった。その後、元妻と元夫との間で、子のサラ金問題などでのやり取りはあったものの、同居はせず別居が継続。
  • 元夫は、2018年5月に大津家裁に離婚訴訟を提起し、双方は、同年7月2日認諾離婚した。
  • 元妻は、大津家裁高島出張所に請求すべき按分割合に関する審判を申し立て、2019年5月に、夫婦の寄与を同等と見ることが著しく不当であるような事情があるとして按分割合を0.35とする審判が下りた。
  • 元妻は大阪高裁に即時抗告。

婚姻期間・別居期間のまとめ

婚姻期間 44年
同居期間 9年
別居期間 35年(婚姻期間の80%)

裁判所の判断

  1. 婚姻期間44年中、同居期間は9年間程度に過ぎないものの、夫婦は互いに扶助義務を負っているのであり(民752条)、このことは、夫婦が別居した場合においても基本的に異なるものでなく、老後のための所得保障についても、夫婦の一方又は双方の収入によって、同等に形成されるべきものである。
  2. 一件記録によっても、双方が別居するに至ったことや別居期間が長期間に及んだことについて、元妻に主たる責任があるとは認められない。
  3. 別居期間が長期間に及んでいることをしん酌しても、(保険料納付に対する双方の寄与を同等とはしない)特別の事情にあるということができない。

原審(大津家裁高島出張所令和元年5月9日審判)の判断

  1. 大阪高裁平成21年9月4日決定を引用
  2. 元妻は、1983年には、子を残して家を出て、1985年には家に戻らない旨を述べて以後没交渉となっている。
  3. 本件の対象期間は、1974年12月2日から2018年7月2日であるが、1985年以降は夫婦としての扶助協力関係にあったものとはみられない。
  4. その意味で、年金分割の制度趣旨に照らして、保険料納付に対する夫婦の寄与を同等とみることが著しく不当であるような例外的事情がある場合にあたる。
  5. 按分割合は、0.35と定めることが相当。

コメント

婚姻期間の8割も別居していた夫婦であっても、保険料納付の夫婦の寄与を同等と認めた裁判例であり、年金分割上の寄与の考え方は、財産分与上の寄与のそれとは明確に異なることを示した裁判例かと思います。

別居に関して、一方配偶者に専ら責任がある場合は、特別な事情を認定する余地を明らかにしています。

一方配偶者が、不貞やDV等を理由に別居した場合は、特別な事情を認定する場合があるように思います。本件も、元妻の不貞の疑いで諍いになったことから別居したと事実認定されていますが、不貞の疑いでなく事実があったならば、特別な事情が認定されたかも知れません。

(参考)最高裁事務総局の年金分割に関する「一般指針」

2007年4月の離婚時年金分割制度の施行前に、最高裁事務総局が下記見解を表明しています。

「現行の被用者年金は、その性質及び機能上、基本的に夫婦双方の老後等のための所得保障としての社会保障的意義を有しているものであるところ、離婚時年金分割との関係においては、婚姻期間中の保険料等納付は、互いの協力により、それぞれの老後等のための所得保障を同等に形成していくという意味合いを有しているものと評価でき、対象期間における保険料等納付に対する夫婦の寄与の程度は、特別の事情がない限り、互いに同等と見るのが相当であると考えるのが、一般的見解である。」(「離婚時年金分割制度関係執務資料」P52 最高裁事務総局編(司法協会2007.3刊)

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