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会社名義財産を家業運営の家族共有財産として財産分与した裁判例

経済活動に対する夫婦の協業・協同態勢から、①共働き型、②専業主婦型、③家業従事型に分けられ、いずの類型においても2分の1ルールが原則である。

家業従事型では、節税対策などから会社形態で運営される場合があるが、その実態が家族経営の域を脱していない場合は、会社名義財産も家業を構成する家族の共有財産であるとして、会社名義の財産を離婚時の財産分与の対象とした裁判例を紹介する。

元妻が元夫に対して申立てた財産分与審判で、原審の家庭裁判所は4人の家業構成員(夫婦と夫の養父母の計4人)の平等な寄与を認めたが、高裁での抗告審では、養父の恩給収入による寄与度を認めてこれを多少修正した。しかし、高裁が、「妻は養父母を含む一家全員のための炊事等家事労働が主であったと認められ、営業への寄与は間接的な面が多いが、そのことによって妻の財産形成への貢献度が劣ることはない。」と判示し、家事労働の貢献度を家業専心者と同等としたことの意義は大きい。

本裁判例:札幌高裁昭和44年1月10日決定(家裁月報21-7-80)

事案の概要

  • 昭和20年3月婚姻、2子出生
  • 夫の勤務先の町役場の職員住宅に居住し、やがて夫の養父母も同居
  • 家計は、夫と養父の勤務先からの給料によって維持
  • 昭和27年7月 養父が土地・建物を購入して、夫婦一家と養父母が移転
  • 移転と同時に、夫の肺結核の病状がよくないため、万一に備えて女手一つやれる事業として、養父が5万円を出資して毛糸店を始めた。養母が中心となって運営し、妻は一家全員の炊事等家事を担当し、余力で毛糸店業務を手伝う。
  • 昭和31年、養父も夫も勤務先を退職して、毛糸店を運営し、新聞販売店を開業し、一家全員で毛糸店と新聞販売店の業務に専念した。
  • 家族全員の協力で経営は順調に伸びていき、税金対策から、昭和34年2月に、毛糸店と新聞販売店の営業を目的とする有限会社を設立した。
  • 夫も給与を養母に手渡すなど終始一家の財政を握る養母と妻の折合いが悪くなり、二度ほど妻が家出をするなどの事態があった後、昭和39年9月に協議離婚。(婚姻19年)
  • 妻は、会社名義の財産であった土地・家屋、商品在庫、現預金等合計400万円を対象に財産分与の審判を札幌家裁小樽支部に申立て、家裁支部は、一家4人で形成した財産だとして400万円の1/4の100万円の財産分与の審判を下したが、夫が札幌高裁に抗告。

裁判所の判断

  1. 会社の実質は、下記の通り家族経営の域を出ないもので、会社組織とは程遠い感覚と実態で運営された。
    ・離婚後の株主総会で、妻の家出と離婚を理由に妻を除名し、長女を社員に選任。
    ・道路拡張のため土地が収用されて、収用補償、営業補償、家屋改築費の補償等が出たが、営業補償も、会社のためには使われず、家屋の改築費に充てられた。
  2. 帳簿上はともかく、会社収支も家計収支も混然一体となって養母によって運営された。
  3. 従い、一家に蓄積された資産は、会社か個人か名義を問わず、養父夫婦と夫婦の共働によって形成された共有財産と見るべき。
  4. 養父の恩給収入は1名分に相当する寄与があるので、養父は2/5、養母・夫・妻は各1/5の寄与度が認められるべき。
  5. 従い、夫婦で2/5の寄与度をもつので、400万円×2/5=160万が財産分与対象。
  6. 財産形成に対する辛苦の程度、婚姻期間、妻による約24万円の呉服購入等を勘案して妻の財産分与額は70万円が相当。(分与比率44%)

コメント

  1. 原審は、各自の寄与度を1/4として100万円の財産分与を認定したが、抗告審では、養父の恩給による出資を重く見て、恩給が1名分の価値があるとして、一家計5名という計算をした。
  2. 謂わば、養父の恩給を特有財産として見たようであるが、そこまでの寄与度があったのか疑問なしとはしない。
  3. ただし、妻の寄与度について、「妻は養父母を含む一家全員のための炊事等家事労働が主であったと認められ、営業への寄与は間接的な面が多いが、そのことによって妻の財産形成への貢献度が劣ることはない。」と判示した点は重要。

参照資料:「離婚に伴う財産分与ー裁判官の視点に見る分与の実務ー」松本哲泓著(新日本法規出版、2019年8月)

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