かつての判例は、内縁・事実婚関係を「婚姻の予約」と解釈していたため、「準婚関係」として財産分与規定を準用すべきとする学説上の通説と乖離していました。
昭和33年の最高裁判決で、準婚関係を肯定する判例変更をしました。内縁・事実婚関係の解消時に、財産分与を規定する民法768条を類推適用するのが、最近の裁判例となっています。一方当事者の法律婚関係が解消していない、所謂、重婚的内縁関係にも、類推適用されています。
内縁関係が認められる要件は、社会的に婚姻と同視しうる関係を結ぶ意思に基づいた共同生活を送ることですが、相当期間の継続的な共同生活などの外形的な事実によって判断されます。
内縁関係が、一方の死亡によって解消した場合は、内縁の生存パートナーは、法律婚でないために相続人にはなれません。更に、死亡時には、民法768条の類推適用もされず、死亡者の相続人に財産分与義務は相続されないとするのが判例です。自分の死亡時にパートナーに財産を残したい時には、遺言書で遺贈するより方法がありません。
内縁関係の解消後に財産分与請求した後に、相手方が死亡した事件では、相手方の生前に財産分与請求権が発生していたので、相手方の相続人に対して財産分与義務の相続を命じています。
互いに仲良く暮らしていた内縁の相手方が死亡した場合には、一切の財産分与はなく、不仲になって内縁関係を解消後に相手方が死亡した場合に財産分与があるというのは、やはりバランスがとれない極めて不公平な取扱いだと思います。
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内縁・事実婚解消時の財産分与
従来の判例は、内縁関係を「婚姻の予約」と解釈してきたので、内縁関係の解消に伴う財産分与を認める余地は全くありませんでした。昭和33年(1958年)に至り、判例を変更して、「いわゆる内縁は、婚姻の届出を欠くがゆえに、法律上の婚姻ということはできないが、男女が相協力して夫婦としての生活を営む場合であるという点においては、婚姻関係と異なるものでなく、これを婚姻に準ずる関係というを妨げない。」(最判昭33-4-11)と判示して、内縁関係に関する学説上の通説である準婚関係説を肯定しました。
これにより、内縁関係の解消時に、民法768条を類推適用して、財産分与請求を認めるのが近時の裁判例となっています。共有財産の考え方等は、法律婚の場合と全く同一です。
尚、一方が法律婚を解消していない重婚的内縁関係にある場合でも、婚姻意思に基づいた共同生活が認定される限り、民法768条が類推適用されます。従い、婚姻後に別居して、他の配偶者と内縁関係になった場合でも、内縁の両当事者に内縁解消後の財産分与請求権が認められのが原則です。
内縁関係を認める要件
「内縁関係は、夫婦としての実質があるが、婚姻の届出を欠いているために法律上の夫婦として認められない関係である。従い、婚姻意思に基づいた共同生活が内縁関係認定の要件である。」(中川吉延「内縁の成立」「家族法体系Ⅱ」有斐閣)
上記婚姻意思には、婚姻届を提出する意思は当然含まないので、「社会的に婚姻と同視しうる関係を結ぶ意思に基づいた共同生活を送る。」ことが内縁関係成立の要件と言い換えられます。尚、婚姻意思は、相当期間の継続的な共同生活等の外形的・客観的な事実によって判断されます。
死亡による内縁解消と財産分与に関する裁判例
法律婚の場合の婚姻財産の精算は、婚姻関係が離婚によって解消する場合は財産分与、死亡により解消した場合は相続により財産の精算が行われます。
一方、内縁・事実婚関係の場合には、内縁関係の生前解消の場合に限り、財産分与請求権を規定した民法768条が類推適用されますが、死後解消の場合は、財産分与義務は相手方の相続人に相続されず、一切の財産分与は否定されています。下記の裁判例1を参照して下さい。
他方、財産分与義務者の死亡前に内縁関係が解消され、権利者が、関係解消後に財産分与請求した後に義務者が死亡した場合は、財産分与義務は、義務者の相続人に相続されます。下記裁判例2を参考にして下さい。
内縁当事者の財産分与請求権の相続性を否定した裁判例
最高裁決定平成12年3月10日の判旨。
民法は、法律上の夫婦の婚姻の解消時における財産関係の清算及び婚姻解消後の扶養については、離婚による解消と当事者の一方の死亡による解消と区別し、前者の場合に財産分与の方法を用意し、後者の場合は相続による財産を承継させることで処理するものとしている。
一方、内縁の夫婦については、離別による内縁解消の場合に民法の財産分与の規定を類推適用することは、準婚的法律関係の保護に値するものとしてその合理性を承認できるが、死亡による内縁解消のときに、相続の開始した遺産につき財産分与の法理による遺産精算の道を開くことは、相続による財産承継の中に異質の契機を持ち込むもので、法の予定しないところである。また、死亡した内縁配偶者の扶養義務が遺産の負担となってその相続人に承継されると解する余地もない。
従い、生存内縁配偶者が死亡内縁配偶者の相続人に対して精算的要素及び扶養的要素を含む財産分与請求権を有するものと解することはできない。
本件は、内縁妻による共働きや共同経営など有形の経済的寄与に基づき、不動産について共有持分の確認と登記請求を求めたら違った結論になった可能性もあろう。本HPの以下投稿ページを参照願います。
財産分与請求後の死亡に対して財産分与義務の相続性を肯定した裁判例
大阪高裁決定平成23年11月25日の判旨。(家裁月報65-4-40)
元内縁の妻(X)と元内縁の夫(Y1)が、平成18年○月○日に内縁関係を解消した後、 XはY1を対して平成19年に家庭裁判所に財産分与の調停・審判を申立てた。審判中に、Y1が平成21年に死亡したので、Y1の子らの相続人(Y2)にY1の地位の承継を求めて、Y2に財産分与義務の履行を請求した。
Y2は、「Y1が死亡するまでに、財産分与請求権の内容が特定して具体的財産分与請求権になっていなければ、財産分与は相続されない」と主張した。
裁判所は、「財産分与調停を申立てて、これを請求する意思を明らかにして、具体的な権利内容は審判において形成されるので、亡Y1が審判中に死亡した場合、その財産分与義務が相続対象となることを否定すべき理由は存在しない。」と決定。又、本事件は、内縁関係解消後に生存権利者が生存義務者に財産分与請求した事案で、内縁関係の死亡解消に関する前記最高裁決定( 平成12年3月10日 )は適用されないと明示した。
参照資料:「離婚に伴う財産分与ー裁判官の視点に見る分与の実務ー」松本哲泓著(新日本法規出版、2019年8月)