精算額の算出方法として、①基準時での自己都合退職金を精算、②将来の定年退職金を精算、③将来の定年退職金額から中間利息を控除した現在価値額を精算の3つの方法がありますが、それぞれの事情に基づいて協議すべきです。
1.基準時での自己都合退職金
会社都合退職金と比べて、かなり額は下がりますが、現時点で確実に手にできる退職金ということで、将来の不確実性を乗り越える算出法でしょう。定年退職が相当先の場合、この方法が妥当性をもつように思います。定年に近接している場合(定年から7-8年以内)以外では、自己都合退職金で計算すると調停委員時代に裁判官から聞いたことがあります。もちろん、離婚後直ちに現金で履行するのが前提です。
2.定年退職金を対象に、定年退職時に分与を履行
実際の定年退職金を、在職期間に対する対象期間の比率をかけた額を分与対象額とします。
分与額=定年退職金×対象期間(婚姻・同居~別居・離婚)/在職期間×0.5
義務者の不確実性と不確定性の問題が回避できますが、債権額が定年退職時まで確定せずに権利者側に不確定性が残る問題があります。又、義務者が定年退職時前に中途退職してしまう場合に権利者が必ずしもその事実を覚知できないという債権保全上の問題が残ります。(公正証書で当然に退職等の通知義務を課してたとして、無断での中途退職そのものを阻止できません。債務不履行による損害賠償しかありません。会社に対して退職金の仮差押をすることになるのでしょうか?)義務者に支払い能力が不十分であって、義務者の性格等から履行が確実に期待できる場合には、採用を検討する余地はあるかも知れません。 (名古屋高判平12-12-20 判タ1095-233)
3.定年退職金を対象に、離婚直後に分与を履行
将来の時点で支給される定年退職金額を、法定利率で中間利息を控除して離婚時点における現在価値に引きなおして、在職期間に対する対象期間の比率で分与対象額を算出します。
中間利息を控除して現在価値を求める係数は「ライプニッツ係数」と呼ばれていて、ネットで検索できます。検索時点の法定利率でのライプニッツ係数を適用して下さい。
参照資料:①「離婚に伴う財産分与ー裁判官の視点に見る分与の実務ー」松本哲泓著(新日本法規出版、2019年8月)②「精算的財産分与に関する実務上の諸問題」山本拓(家裁月報62-3-1)