東京家裁平成20年10月22日審判。婚姻期間30年中、13年別居していた事案で以下のように判示。
対象期間における保険料納付に対する夫婦の寄与は、特別の事情がない限り、互いに同等と見るのを原則と考えるべき。
いわゆる3号分割に関する厚生年金保険法78条の12に示された「被扶養配偶者を有する被保険者が負担した保険料について、当該被扶養配偶者が共同して負担したものであるという基本的認識」は、特別の事情がない限り、いわゆる合意分割にも妥当する。
法律上の夫婦は、互いに扶助すべき義務を負っており、(民法752条)、仮に別居により、夫婦間の具体的行為としての協力関係が薄くなった場合であっても、夫婦双方の生活に要する費用が夫婦の一方または夫婦双方の収入によって分担されるべきであるのと同様に、それぞれの老後のための所得保障についても夫婦の一方または双方の収入によって同等に形成されるべき関係にある。
申立人(元妻)が相手方(元夫)に対して、別居期間中に扶助を求めることが信義則に反していたような事情は何ら見当たらないから、按分割合は0.5。
裁判例出所:家庭裁判月報61巻3号P67
- 年金分割の按分割合に関する裁判例を集約して解説します
- 年金分割の按分割合は、家裁審判では特別事情がない限り0.5(裁判例)(大阪高裁平成21年9月4日決定)
- 年金分割・按分割合は、35年の別居があっても0.5(裁判例)(大阪高裁令和元年8月21日決定)
- 0.3の年金分割の按分割合で確定した希な裁判例(東京家裁平成25年10月1日審判)
- 浪費や財産隠匿は、年金分割に関する特別事情にあたらない(裁判例)(広島高裁平成20年3月1日決定)
- 同居期間が短い事は、年金分割の特別事情にあたらない(裁判例)(名古屋高裁平成20年2月1日決定
- 別居とその後の家庭内別居は、年金分割の特別事情でない(裁判例)(札幌高裁平成19年6月26日決定)
- 年金分割しない旨の合意があれば年金分割しなくてもすむか?
- 年金分割をしない合意を有効として、年金分割審判を却下した裁判例(静岡家裁浜松支部審判平成20年6月16日審判)
- 年金分割ー離婚後に老後の所得保障を確保する必須手続
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- 別居と婚姻費用ー別居を長くしても自動的には離婚できません。

事案の概要
- 昭和52年:婚姻
- 平成6年:別居
- 平成19年11月:裁判離婚(婚姻30年、別居13年)
夫の主張
婚姻期間約30年中、13年間は別居して妻は夫に対して、何らの協力をしなかったので、別居期間中の保険料納付に対する妻の寄与がゼロであったことが考慮されるべき。
家庭裁判所の判断
- 対象期間における保険料納付に対する夫婦の寄与は、特別の事情がない限り、互いに同等と見るのを原則と考えるべき。
- 被用者年金の中心となる老齢基礎年金は、基本的に夫婦双方の老後等のための所得保障としての社会保障意義を有している。離婚時年金分割制度との関係においては、婚姻期間中の保険料納付は互いの協力によりそれぞれの老後のための所得保障を同等に形成していくという意味合いを有している。
- いわゆる3号分割に関する厚生年金保険法78条の12に示された「被扶養配偶者を有する被保険者が負担した保険料について、当該被扶養配偶者が共同して負担したものであるという基本的認識」は、特別の事情がない限り、いわゆる合意分割にも妥当する。
- 法律上の夫婦は、互いに扶助すべき義務を負っており、(民法752条)、仮に別居により、夫婦間の具体的行為としての協力関係が薄くなった場合であっても、夫婦双方の生活に要する費用が夫婦の一方または夫婦双方の収入によって分担されるべきであるのと同様に、それぞれの老後のための所得保障についても夫婦の一方または双方の収入によって同等に形成されるべき関係にある。
- 申立人(元妻)が相手方(元夫)に対して、別居期間中に扶助を求めることが信義則に反していたよいうような事情は何ら見当たらない。
コメント
別居により協力扶助がなくなったとして、別居期間中における妻の保険料納付の寄与が争点となった裁判例で、財産分与の基準時として別居時を原則とする扱いを考えても、元夫の主張には、それなりの理由があると思われる。
しかし、裁判所は、①3号分割の基本的認識は、合意分割にも適用されるべき、②別居期間中の婚費分担義務とからめて、別居期間中の保険料納付も分担されるべきものとしたのは、論理的整合性の高い立論である。
尚、3号分割については、先例となっている大阪高裁平成21年9月4日決定にも踏襲されている。
別居したことにつき、不倫による別居等、専ら第2号改定者に責めがあり、第2号改定者が別居期間中に扶助を求めることが信義則に反する場合は、0.5以外となる余地はあるということであろう。
参考になる裁判例である。