広島高裁平成20年3月1日決定。
按分割合を定めるに当って、事実上の離婚状態にあることが客観的に明白な破綻別居期間を対象の婚姻期間から除外すべきであるとしても、別居したことから直ちに、婚姻関係が破綻して事実上の離婚状態になっていたものとは言えない。
本件では、按分割合を定めるあたって斟酌しなければ不相当というべきまでの明白な破綻別居期間の存在を認定できない。
元妻の浪費や隠匿に係わる事実があったとしても、離婚に伴う財産分与で解決すべき事項で、特別の事情には当らない
裁判例出所:家庭裁判月報61巻3号P60
- 年金分割の按分割合に関する裁判例を集約して解説します
- 年金分割・按分割合は、家裁審判では特別事情がない限り0.5(裁判例)(大阪高裁平成21年9月4日決定)
- 年金分割・按分割合は、35年の別居があっても0.5(裁判例)(大阪高裁令和元年8月21日決定)
- 0.3の年金分割の按分割合で確定した希な裁判例(東京家裁平成25年10月1日審判)
- 婚姻30年中、13年別居していても年金分割は0.5(裁判例)(東京家裁平成20年10月22日審判)
- 同居期間が短い事は、年金分割の特別事情にあたらない(裁判例)(名古屋高裁平成20年2月1日決定
- 別居とその後の家庭内別居は、年金分割の特別事情でない(裁判例)(札幌高裁平成19年6月26日決定)
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- 年金分割をしない合意を有効として、年金分割審判を却下した裁判例(静岡家裁浜松支部審判平成20年6月16日審判)
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事案の概要
- 平成12年:婚姻
- 平成17年4月:別居
- 平成18年 元夫から離婚訴訟提起
- 平成19年8月 裁判上の和解が成立して和解離婚(婚姻7年)
高等裁判所の判断
- 按分割合を定めるに当って、事実上の離婚状態にあることが客観的に明白な破綻別居期間を対象の婚姻期間から除外すべきであるとしても、別居したことから直ちに、婚姻関係が破綻して事実上の離婚状態になっていたものとは言えない。
- 本件記録を精査しても、按分割合を定めるあたって斟酌しなければ不相当というべきまでの明白な破綻別居期間の存在を認定することはできない。
- 原審判は、当該別居期間について、当該対象期間における保険料納付に対する当事者の寄与の程度その他の一切の事情を考慮して判断し、按分割合を定める当って双方の寄与を同等とみることの例外を認めるべき特別の事情に当らないと説示したものと言うべきであって、厚生年金保険法78条の2第2項の解釈を誤っていないし、理由不備の違法もない。
- 元妻の浪費や隠匿に係わる事実があったとしても、離婚に伴う財産分与で解決すべき事項で、特別の事情には当らない。
コメント
7年という短い婚姻期間を考えると、年金分割の按分割合を抗告審まで争う価値があったかは疑問なしとしない。
しかし、「事実上の離婚状態にあることが客観的に明白な破綻別居期間を対象の婚姻期間から除外すべき」との考え方は、本裁判例で初めて示されたもので、この後の裁判例では、元夫側から、没交渉の別居という主張がなされている。いずれも、特別な事情に当らないとされているが—
又、財産分与と年金分割の問題は、異なる問題で関係がないという考え方は、その後の裁判でも踏襲されているようである。