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家裁で手続しない相続放棄は相続権の放棄ーはんこ代目当てが殆ど

相続放棄は、初めから相続人とならなかったと見做されて、被相続人の権利も義務も一切承継しない法的効果をもつ手続(民939条)です。相続開始を知ってから3ヶ月以内に、家庭裁判所での申述手続が必須ですが、申述手続もせず民法上の相続放棄に該当しないのに、相続放棄したと言う方を多く見受けます。

殆どのケースは、遺産分割で、長男や親と一緒に暮らしてきた兄弟姉妹の一人(以下、「家督相続人」と呼びます。)に住居等の不動産を含めた全財産を相続させて、自分は形式的には相続しないことを「相続放棄した」と言っているようです。明らかに、間違った言葉の使用法です。

すべての遺産を家督相続人に相続させる趣旨の遺産分割協議書を行政書士等に作成させた上で、家督相続人以外の全ての相続人が、協議書本体の内容を確認もせずに家督相続人に実印と印鑑証明書を渡して、家督相続人が全相続人の記名(氏名がPC等で印字されていること)の後に実印を押して遺産分割協議書の作成を完了させて、不動産相続登記の登記原因証書等として使うようなやり方がかなり行われているようです。まだまだ、戦前の家督相続的な考え方が残っているので、こういうことが行われるようです。

勿論、家督相続的相続人以外のすべての相続人が正式な相続放棄の申述をすれば、同じ効果をもちます。しかし、いわゆる相続放棄したと言い立てる人は、相続において何もいらないという意図は全くなく何らかの代償金等が欲しいので、正式な相続放棄の申述手続はしません。本人は何も相続しないという遺産分割協議書を作成した後で、家督相続人から本人宛に何らかの代償金(「はんこ代」と俗に呼ばれることが多いようです。)が支払われることを期待しています。家督相続人が、はんこ代の支払に知らんぷりすると、やれ裁判所に訴えるなどと後から大もめにもめる場合が多いようです。長男による家督相続制度がとられていた戦前とは異なり、兄弟姉妹は平等だと誰もが知っているので、はんこ代的な考え方が生まれたのかも知れません。

このように、遺産分割協議書上は形式的な相続分がなくても実際には何らかの金銭等を欲しい相続人の行為は、「相続権の放棄・譲渡」と呼ばれるべき法律行為です。家督相続続人と他の相続人との間で相続権の放棄契約や譲渡契約を行ったと見るべきです。これらの契約は有償でも無償でも当然に有効で、はんこ代を期待している相続人は、家督相続的相続人との間で有償の「相続権放棄契約」や「相続権譲渡契約」を行ったと認識しているのです。

家庭裁判所の遺産分割調停に出てくる当事者の中には、自分の取り分を特定の相続人に集中させて調停の対立構造を単純化する目的等から、相続権の譲渡契約を締結して調停委員会に提出する場合があります。調停委員会は、譲渡した相続人を調停の当事者から除外し、譲渡された相続人の相続分が増加したと読み替えて遺産分割の調停を進行します。(提出される書面には通常有償・無償は記入されていません。当事者間では、別途条件を定めた契約が結ばれているのだと想像します。単純に相続分を無償譲渡する場合もあるかとも思いますが—)

後々のもめごとを回避するためには、家督相続的相続人と各相続人間で、個別に相続権譲渡契約を正式な書面で締結し、有償・無償の有無、有償ならその額と支払条件を明記すべきです。ポイントは、最後に清算条項を明記して後々のもめごとを封じることと、債務の引受比率(相続人間だけで有効)を実際の相続額比率とすることです。又は、遺産分割協議書に各相続人のはんこ代等を明記して精算条項を規定することです。

ただし、上記はあくまで、積極財産が消極財産を上廻る場合に有効なやり方です。かなりの債務があって全体がマイナスとなるる場合は、対相続債権者との間では、法定相続分比率で債務が承継されますので、3ヶ月以内の相続放棄申述が必要です。

後々の揉め事を防止する最も安全サイドのやり方は、家督相続人以外は相続開始後3ヶ月以内に、家裁で正式な相続放棄申述を行い、その対価として「はんこ代等」を規定する協議書等を作成することです。(家裁での相続放棄申述が面倒くさいという人もいそうですが、郵送でできる手続です。)相続放棄申述する相続人は、債務から完璧に免れた上に、はんこ代を確保できますし、家督相続人も後から蒸し返されることがなくなります。

はんこ代

はんこ代に相場はありません。元々はんこ代という言葉自体が法律用語ではなく、慣習で使用されているだけです。はんこ代は、遺留分にあたる法定相続分の2分の1とする考え方もあるようですし、10万円とは100万円とかいう話もあるようです。要は、当事者間の話合いで決定すべき事項です。

取扱事例

家督相続人が、はんこ代を知らんぷりした後で、はんこ代を期待していた姉と弟との間で大もめに揉めた事例で、家督相続人の相談に預かったことがあります。姉と弟は、裁判所に訴えると息巻き、相談者はぶるっておびえ切っていました。(いきがって大きな事を言う人は、蚤のハートの上にケチなので、こういう揉め事がおきてしまいます。)

相続人3人の実印を押した遺産分割協議書と3人の印鑑証明書を法務局に提出して不動産の相続登記は終わっていました。「遺産分割協議は正式に終わっているのだから、何も恐れる必要はない。」「姉・弟が家庭裁判所に遺産分割調停を提起しても、1回目の調停に時に、遺産分割協議書と登記事項証明書を提出して、遺産分割協議は既に終わっているから、遺産分割調停は却下されるべきと主張すれば必ずそうなる。」「その前後に、姉・弟と、相続分の1/2を目途とするはんこ代を交渉したらよい。」とアドバイスしました。(相談者が、遺産分割の再協議を了解すれば、裁判所での遺産分割調停は正式に進行します。私人関係なので、公序良俗と強行法規に反しない限り、当事者間の合意がすべてだからです。)

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