離婚や財産分与、慰謝料などでお困りではありませんか
元調停委員・行政書士夫婦が離婚・相続の解決をお手伝いします。

一身専属権と財産分与・年金分割ー相談事例

私法上の権利、特に財産法上の権利は、権利の譲渡と相続、第三者による権利行使(債権者代位権)が認められるのが通常です。一身専属権は、例外として、本人しか行使できず、他人への譲渡や相続が不可能な権利です。慰謝料請求権、扶養請求権、財産分与請求権や年金請求権が一身専属権とされています。慰謝料請求権は、精神的・身体的な損害を受けた当事者が慰謝されて始めて意味をもつ権利であり、扶養請求権や財産分与請求権は、三親等以内の親族や元配偶者など特別な身分関係をもつものだけが行使できる権利だからです。公的な年金請求権は、老後等の所得保障として社会保障的機能をもつ公法上の権利なので一身専属権とされています。(選挙権など公法上の権利は殆ど一身専属権です。)

一身専属権は、夫婦の協力により形成された権利ではないので、特有財産として扱われ、離婚時に財産分与の対象とはなりません。交通事故により支払われた保険金中の障害慰謝料と後遺障害慰謝料部分については、財産分与から除外されます。又、交通事故により障害年金が支払われるようになった場合は、年金分割制度上の強制的分割である3号分割はできませんが、合意分割は可能です。

下記相談事例をお読みいただけば、理解できると思います。

Q:交通事故の慰謝料は特有財産?障害年金は?

50代の共働き主婦です。夫から私の学歴などを揶揄するモラハラに耐えかねて熟年離婚を考えています。財産分与と年金分割に関してお聞きします。
3年前に交通事故で、片方の膝を人工関節にする大怪我を負いました。加害者が加入している損害保険から、3,000万円の賠償金が私名義の預金口座に振り込まれました。財産分与時に、共有財産として扱われてしまうのでしょうか?自分だけが痛い思いをした事に対する保険金なのに、おかしいと思います。又、この事故により年金機構から障害厚生年金3級と認定されて障害年金を受給しています。離婚時に、障害年金も年金分割の対象になるのでしょうか。尚、私の年収は、夫の年収より高いです。

A:交通事故の慰謝料は特有財産

交通事故の被害者となって、加害者から受ける損害保険金の給付は、以下の通り3つの損害に対する給付から構成されます。

  1. 積極損害:治療費や通院交通費など事故により直接出費した金額を損害とする。
  2. 消極損害:事故により仕事を休まざるを得なかったことによる給与の減少などの休業損害と後遺症が残ったことにより本来は得られたであろう将来の収入の減少(=逸失利益)を損害とする。休業損害も逸失利益も、被害者が直接出費したものでなく、事故がなければ本来は得られたであろう金額を損害とするので、消極損害と言う。
  3. 慰謝料:障害慰謝料、後遺障害慰謝料からなり、事故による受傷から、入通院治療を受けたり、後遺障害が残ったことによる精神的苦痛・損害を慰謝するもの。

3の慰謝料は、夫婦の協力によって得た財産ではなく、あなたが痛い思いをしたという精神的損害に対する賠償金で、あなただけに属する一身専属的請求権の対価です。当然に特有財産で財産分与の対象ではありません。

1の積極損害及び2の休業損害への補償は、医療費や勤労収入の減少に対する補償なので全額が共有財産です。2の逸失利益への補償は、障害がなかったとしたら得られたはずの将来における労働の対価合計を現在価値に引き直したものなので、受傷時から離婚までの期間に対応する逸失利益だけを共有財産として財産分与の対象とします。言い換えれば、離婚時から平均余命までの期間に対応する逸失利益は特有財産で、事故前の正常な稼働期間中に配偶者の寄与があるので、受傷時から離婚時までの期間に対応する逸失利益は共有財産になるとの裁判例があります。(大阪高判平成17年6月9日 家裁月報58巻5号67頁)。

具体的には、3,000万の賠償金の中に消極損害の逸失利益に相当する部分については、(離婚時年令ー受傷時年令)÷(平均余命ー受傷時年令)の比率をかけた金額が共有財産の逸失利益として、積極損害及び休業補償と共に、共有財産として財産分与の対象になります。

離婚訴訟や財産分与審判の場合は、交通事故の慰謝料が入金した口座から生活費等夫婦の費用を支出している場合は、共有財産と特有財産が混じり合ったものと見做され、最終的に共有財産と推定されてしまうようです。協議離婚や調停では、そういう事実があっても、特有財産と扱うことで合意すべきでしょう。

尚、保険金はあなたの損害に対する賠償金なので、あなたが被ったマイナス(=損害)を賠償金で帳消しにするものです。損害と賠償金の合計はゼロに過ぎないので、所得税法上、課税対象にはなりません。

A:障害年金の3号分割は禁止、但し合意分割は可能

年金債権は、本来的に一身専属権ですが、2007年4月に離婚時だけに限り、分割することが認められました。

しかし、障害年金は、あなた自身の障害によって支給年齢が早められ且つ割り増し額の年金が支払われるので、交通事故の慰謝料と同じ扱いにして、年金分割の対象にすべきではないと思う方も多いかと思います。

特にあなたの年収が高いということは、合意分割によりあなたが損することになり、その上、障害年金部分まで分割されることはおかしいと思う気持ちはよく理解できます。

厚生年金保険法では、一身専属的な障害年金を合意なしに自動的に分割する3号分割を禁止しています。しかし、ここでも私的自治の原則は貫かれていて、合意分割は可能です。二人の年金分割の協議がまとまらない場合は、最終的には、家庭裁判所での年金分割審判で決せられることになります。通常の厚生年金の分割では、現在までは、例外なく0.5の按分割合とする審判が下りています。しかし、障害年金の審判例はないようで、裁判所がどう判断するかは解りません。少なくとも、あなたの年収の高い部分は、0.5の按分割合で平準化されることと思います。

年金分割を求めないという私人間の合意(「訴権の放棄」と言います。)は有効です。この合意があれば、仮に夫が年金分割の審判を申立てても、裁判所は、審判を却下して(=門前払いして)実質的審議に入りません。あなたが、財産分与等で、夫に有利な条件を出す等の対価として訴権の放棄を求めることを検討してみてはいかがですか。

参照資料:「離婚に伴う財産分与ー裁判官の視点に見る分与の実務ー」松本哲泓著(新日本法規出版、2019年8月)





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