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別居している時の財産分与放棄等の夫婦間合意を取消できない理由は?

別居する際に、離婚時には財産分与を求めないと書面で合意した場合、訴訟等ではこの合意を有効として取り扱われるでしょうか。

別居中とは言え、婚姻は継続していて、法的には夫婦です。民法754条は、夫婦間の契約は、婚姻中はいつでも一方から取り消しできると規定しているので、財産分与を求めないという合意は、夫婦の一方からいつでも取り消しできるように見えます。

しかし、夫婦間契約の取消権は、実質的に婚姻関係が継続している場合に認められ、別居等婚姻が破綻している場合には、もはや取消権は認められないというのが裁判例の立場です。従い、「財産分与を求めない」などの財産分与請求権を放棄する合意は一応有効なものとして取り扱われます。

但し、どういう経緯で財産分与請求権を放棄したかが次の問題となります。詐欺や脅迫、錯誤や心理留保など意思表示上の問題を理由として、合意を取り消ししたり、無効とされる可能性があります。

夫婦間契約の取消権

民法754条 夫婦間でした契約は、婚姻中、いつでも、夫婦の一方から取り消すことができる。ただし、第三者の権利を害することはできない。

  1. 取消権の意義
    民法754条の立法理由として、夫婦間の契約は自由意思に基づかないことが多く、その履行に裁判所が関与するのは家庭の平和を害するから自由な取消権が規定された等と説明されています。しかし、夫婦関係が円満な時に夫婦間契約の取消が問題になる場合は殆ど考えられないし、2,3に示すように婚姻関係が破綻している場合は、取消権を認めないという確立した判例がある以上、夫婦間契約の取消条項は空文化しているとの有力な指摘があります。(内田貴著 民法Ⅳ P47)
  2. 婚姻破綻時の取消権を否認した裁判例(1)
    夫は、妻との婚姻が破綻してから、離婚を前提に妻に不動産を贈与した。(婚姻中の贈与なので、「財産分与」にはならないことに注意)夫が、離婚届提出前に贈与契約を取り消す旨の意思表示を行ったが、裁判所は取り消しを否認。(最高裁判決昭和33年3月6日 民集12-3-414)
  3. 婚姻破綻時の取消権を否認した裁判例(2)
    婚姻後10年あまりを経て、夫婦仲が悪化したので、両者の和合・和解を期す目的で、夫から妻への不動産の贈与契約が書面で作成された。しかし、その後も夫婦の不和は続き、双方から離婚訴訟が提起されるに至った。妻から贈与契約に基づき不動産の移転登記を求める訴訟が提起されたが、夫は贈与契約取消の意思表示を行った。裁判所は、「民法754条にいう「婚姻中」とは、単に形式的に婚姻が継続していることではなく、形式的にも、実質的にも婚姻が継続していることをいうものと解すべきであるから、婚姻は実質的に破綻している場合には、夫婦間の契約を取り消すことは許されない。」と判示。(最高裁判決昭和42年2月2日 民集21-1-88)
    ⇒和合を目的に贈与契約を締結したので、契約時には婚姻は破綻していなかったが、その後再度破綻してから取り消しの意思表示をした事例であっても、夫婦間契約の取消権を認めない。

離婚前の財産分与の合意

財産分与請求権は離婚後に認められるものであるが、離婚前に財産分与を合意することは可能であり、実務では、離婚前に離婚等給付契約公正証書を締結する場合が大半である。この離婚給付契約も、形式的には、婚姻中の夫婦契約です。婚姻破綻しているから、離婚前に離婚給付等契約公正証書を締結した筈であり、一方が離婚届け提出まで自由に契約の取り消しができるとするのは極めて不当で、判例の立場が当然でしょう。

従い、別居時に、「財産分与を求めない。」「自宅を財産分与する」等の書面を差し入れた場合、直ちに取り消しすることはできず、意思表示に何らかの問題がある場合のみ、取り消し又は無効の問題が生じます。

合意時の意思表示の問題

「離婚時に財産分与はいらない」という内心的効果意思と、「財産分与請求権は放棄する」書面という表示行為は一見一致しているが、一方が他方に無理矢理に書面を書かせた場合は強迫による意思表示であり、強迫された当事者は当然に瑕疵ある意思表示として取り消しが可能です。又、「夫名義の財産は、債務超過状態でマイナスである。財産分与なしとの合意をしないなら、債務の引受を要求する」等と事実と異なるウソをついて形成された合意は、詐欺による意思表示で、当然に、財産分与請求権を放棄した者は、その意思表示を取り消すことができます。

又、離婚を早く実現するために、「自宅不動産を分与する」等の自分の真意と異なる意思表示「心裡留保」(内心的効果意思を欠く意思表示)をしたとして、書面作成後に不動産分与条項の無効を主張する当事者もいます。相手方が真意を知り得たかどうかが、「心裡留保」が成立するかどうかのポイントです。真意を知り得る状況にあったか否かの立証責任は心裡留保を主張する者にあり、立証されない限り、無効とはなりません。

又、相続した高額の不動産を元妻に分与した後に、多額の譲渡所得税が課せられることを知った元夫が、錯誤による無効(民法改正で現在は取消、本件は動機の錯誤にあたります。)を主張して認容された例があります。(最判平元9.14家裁月報41-11-75)

参照資料:「離婚に伴う財産分与ー裁判官の視点に見る分与の実務ー」松本哲泓著(新日本法規出版、2019年8月)

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