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遺言による相続分指定は、相続人間では債務にも適用(裁判例)

被相続人の死亡による相続開始により、債務は法定相続分の割合により各法定相続人に自動的に分割されて承継されますが、遺言により、法定相続分と異なる相続分が指定された時は、相続人間では、指定相続分に応じて債務が承継されるが、債権者に対してはあくまで法定相続分によって承継されるとする最高裁の判例(最高裁平成21年3月24日判決)があり、これにそって相続実務は行われています。

債権債務は、民法上は可分債権・可分債務として扱われるので(民427条)、相続開始により、債務は当然に法定相続分の割合により分割されます。(民899条:各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。)

遺言で債権など資産の帰属を決定することはできますが、債務の帰属を決定することは通常はできません。しかし、遺言で法定相続分と異なる相続分の指定(民902条)を行った時は、相続人間では、債務の承継は指定された相続分で行われますが、相続債権者との間では異なる扱いとなります。法定相続分と異なる相続分の指定は、被相続人の債務の債権者(=相続債権者)の関与と了解なくなされたので、相続債権者に対しては、指定相続分による債務の承継は対抗力をもちません。従い、相続債権者との関係では、各相続人は法定相続分に応じた債務履行義務を承継します。相続債権者は、各相続人に対して、法定相続分に応じた債務の履行を請求できますし、各相続人は法定相続分に応じた債務の履行を拒めません。

事案の概要

  1. 被相続人Aは、平成15年7月23日に、2人の子の内YだけにAのすべての財産を相続させるとの公正証書遺言をした。この遺言により、Aは遺産分割の方法の指定として、遺産全部をAに移転する内容を定めた。
  2. Aは、公正証書遺言作成後、平成15年に死亡した。
  3. Aの遺産は、不動産を含む積極財産432,317,003円、消極財産424,832,503円であった。(純資産は、7,484,500円)
  4. Aの他方の子Xは、平成16年4月4日に遺留分減殺請求権行使の意思表示を行い、Yはその後、不動産の移転登記を行った。
  5. Xは、遺留分侵害額として、純資産額の4分の1に相続によって当然承継した債務額(債務額の2分の1)を加算した214,287,376円主張して訴訟を提起した。
  6. Yは、遺言によって債務は全額Yが承継したので、Xに対する遺留分侵害額の算定に当たり加算する債務額はゼロで、純資産の1/4の1,871,125円が遺留分額であると主張した。(XY主張間の差額:212,416,251円)

裁判所の判断

相続人のうちの1人に対して財産全部を相続させる旨の遺言により相続分の全部がYに指定された場合、遺言の趣旨から相続債務については当該相続人Yにすべてを相続させる意思のないことが明らかなど特段の事情がない限り、当該相続人Y に相続債務もすべて相続させる意思表示がなされたと解すべきで、相続人間においては、当該相続人が指定相続分に応じて相続債務をすべて承継することになると解するのが相当。

上記遺言による相続債務についての相続分の指定は、相続債務の債権者(相続債権者)の関与なくなされたもので、相続債権者に対してはその効力が及ばないと解するのが相当。各相続人は、相続債権者から法定相続分に従った相続債務の履行を求められたときには、これに応じなければならず、指定相続分に応じて相続債務を承継したことを主張できない。

ただし、相続債権者の方から相続債務についての相続分の指定の効力を承認し、各相続人に対して、指定相続分に応じた相続債務の履行を請求することは妨げられない。

相続人のうちの1人に対して財産全部を相続させる 旨の遺言がされ,当該相続人が相続債務もすべて承継したと解される場合,遺留分の侵害額の算定においては,遺留分権利者の法定相続分に応じた相続債務の額を遺留分の額に加算することは許されないものと解するのが相当である。(従い、Xの遺留分額は、Yが相続した積極財産総額から債務総額を控除した正味資産額7,484,500の1/4となるので、1,871,125円 にしかならない。

遺留分権利者が相続債権者から相続債務について法定相続分に応じた履行を求められ,これに応じた場合も,履行した相続債務の額を遺留分の額に加算することはできず,相続債務をすべて承継した相続人に対して求償し得るにとどまる。

本件についてみると,本件遺言の趣旨等からAの負っていた相続債務についてはYにすべてを相続させる意思のないことが明らかであるなどの特段の事情はうかがわれないから,本件遺言により,XとYとの間では,相続債務は指定相続分に応じてすべてYに承継され,Xはこれを承継していないというべき。そうすると,Xの遺留分の侵害額の算定において,遺留分の額に加算すべき相続債務の額は存在しない。

まとめ

Xのみが、実質的に全ての父の財産を独占しようとしてまんまと成功した事例であるように思われる。Yの遺留分額のあまりの少なさに不公平感を禁じ得ない人も多いかと思われる。

最高裁判決には何も触れられていないが、これだけ債務が多いのは、相続税対策で父のもつ土地に賃貸マンション等の収益物件を建築し、建築費の相当部分を金融機関からの借入にあてたからだと思われる。

生前に父が保有したマンションの資産評価額は、固定資産税評価額で評価されたものであろう。その為に、資産額と債務額が近似して遺留分額が雀の涙となったのであろう。

賃貸マンション等の収益物件は、収益還元法で評価されるべきではないか。収益還元法を採用すれば、この何十倍の評価となり、遺留分額は飛躍的に増加したのではなかったか。Yの代理人弁護士が、収益還元法による評価を主張したのかどうかは不明である。

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